情熱のカムアラウンド

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心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

駆け出しライター、平昌五輪に殴り込む⑤ 思わぬプレゼント

 

あんな雄姿を見せられて、感動しないわけがない。

2月14日。ノルディック複合ノーマルヒルの後半距離。前半のジャンプを3位で折り返した日本の渡部暁斗が、先頭の2人に追いついた。彼の後方にいた2人も併せて先頭は5人の集団。その中には、エリック・フレンツェルもいた。ソチオリンピック金メダルにしてワールドカップ5シーズン連続優勝。渡部暁斗の金メダル獲得に立ちはだかる最強の王者だ。

位置取りを微妙に変えながら周回を重ねた5人の先頭集団は、やがて4人、3人と絞られていく。渡部もフレンツェルもその中に残っていた。どうやらメダルは確定。あとはその色だけ。メインスタンドに設置されているオーロラヴィジョンには、一番後方の渡部が2人についていく姿が映し出される。

「渡部、頑張れー!!」

自然と声が出た。既にコーヒーを地面に置き、立ちっぱなし。もはや座席は荷物置きの役目しか果たさない。レースは、最後の周回途中で渡部とフレンツェルの一騎打ちに。渡部が最後まで残った。その最後の力を振り絞る力走に、自然と目頭が熱くなった。

日本にとってのノルディック複合は、前半のジャンプでリードを奪い、後半の距離を逃げ切る競技。萩原健司さんがワールドカップで勝ちまくっていた頃の記憶が強い者としては、いまだにそのイメージが抜けない。だから、ルール改正でジャンプのアドバンテージが減らされた後に、日本勢が苦戦する様子に疑問も持たなかった。

日本人がクロスカントリーで勝つことはできない。勝手にそう決めつけていた。

しかし、どうだろう。僕の目の前で、欧米人と互角以上に渡り合っている日本人が映っている。「ジャンプでリードして逃げ切るのはつまらない」と言って、それを有言実行する日本人が。“できない”と決めつけていたイメージを、“できる”に変えてくれる日本人が。

「頼む!! 勝ってくれ」

これ以上頑張れなんて声はかけられない。僕は手を拝むように合わせ、祈りながら見つめていた。頭のどこか片隅でフレンツェルが有利な気はしていた。ただ、後から思い返すと、なぜ“勝ってくれ”だったのだろうと思った。通常、何かに祈るなら“勝ってくれ”ではなく“勝たせてくれ”だ。でも、今ようやくわかってきた気がする。僕は祈るのではなく、お願いしていたのだ。僕が決めつけていた“できない”を“できる”に変えてくれた渡部暁斗に、勝つ姿を見せて欲しいと。

昨年の夏、札幌の大倉山ジャンプ場の迫力に圧倒された時、一度くらいは斜面を飛んでくる選手の景色を観てみたいと思った。だから、20日まで空くカーリング観戦の間に1つぐらい別の競技を観ようと思った時、スキージャンプが浮かんだ。帰路を考えて、明るい時間帯に開催のノルディック複合ノーマルヒルに決めた。平昌に向かったのはそんな軽い気持ちだった。

クロスカントリーの魅力。心を激しく揺さぶる雄姿。まさか、こんな思わぬプレゼントをもらえるとも知らずに。

「今日は(テレビの)チャンネルを変えられなかったんじゃないかな」

オリンピック前に「つまらなかったら、チャンネルを変えてくれてもいい」と話していた渡部暁斗は、試合後そんなユーモアで好勝負を表現してみせた。

20日にはノルディック複合ラージヒルが残っている。彼が会見で話した通り「金への再挑戦」だ。残念ながら、僕は同じ時間帯にカーリング観戦の真っ最中。その再挑戦をリアルタイムで見ることができない。

それならば、今度こそお願いするのではなく、ちゃんと祈ることにしよう。
渡部暁斗を“勝たせてくれ”と。