リアル二刀流はモチベーションを上げるスイッチ 〜栗山監督のモチベーターぶりに思う〜
一昨日、北海道日本ハムファイターズが4年ぶりのリーグ優勝を決めた。
家に帰ってきた時、試合はすでに8回裏途中。まずは、1−0というスコアを確認。そしてアナウンサーの言葉で、大谷翔平がここまでヒット1本15奪三振の快投を見せていることを知った。今シーズン、大谷は完投こそあれ完封はないのだという。シーズン初完封を、よりによって優勝が決まる大一番で、しかも準完全試合ペースでやってしまおうとしているのだからモノが違う。少しだけ、松坂大輔が甲子園の決勝でノーヒットノーランを達成したことがオーバーラップした。スターという星のもとに生まれた人間ってこういうことなのかなと。
もちろん、大谷1人の力でソフトバンクをまくれたわけがない。ファイターズの選手スタッフ全員の力で勝ち取ったリーグ優勝だろう。とはいえ、僕はペナントレースを通じてファイターズの戦いを見続けてきたわけではないので、個々人の選手の活躍ぶりについては他の方々にお任せしたいと思う。
そして、何よりも感嘆したのが栗山監督の見事なモチベーターぶり。
「(選手は)全ての面で進化してくれた」
「夏場くらいからは、ほとんど僕は何も言っていない」
「その成長を見ているだけに、ただ最後はどうしても勝たせてあげたかった」
胴上げで8度宙を舞った後、栗山監督の優勝監督インタビューから感じたのは選手への愛情。
「全力でプレーできるかどうか。オレは待っている」
不振に苦しみ2試合欠場した際、熱いメッセージを送られた中田翔は、涙を拭いながら優勝監督インタビューを聞いていた。
「増井のために、チームが優勝するために何が必要か。日本一になるためのこちらからのお願い」
クローザーの不調から先発転向となった際、そう明かされた増井浩俊は、先発転向後6勝1敗の好成績で快進撃を支えた。
選手を信じて、時には我慢して使い続け、時には選手の声に耳を傾け、時には信頼を言葉で伝え、時には新しい変化を促す。選手を意気に感じさせるモチベーターとしての手腕は、采配というより手綱さばきという方がしっくりくる。
その見事な手腕を考えると、1つの仮説が思い浮かんできた。
栗山監督は大谷のリアル二刀流を、チームのモチベーションとしてうまく活用していたのではないか? と。
今シーズンの打者大谷は、3割以上の打率を残し、規定打席に到達していないのにも関わらず20本以上の本塁打を打っている。これを書いている時点で、規定打席に到達しているパリーグの打者で3割20本をクリアしているのは、西武の浅村栄斗だけである。投手としてエースであった大谷は、打者としても一流の仲間入りを果たした。
打者としても一流、投げればエースの大谷を同時に起用するリアル二刀流は、確実にチームの戦闘力を上げるチームの切り札。しかし、切り札はあまり使っては価値が薄れる。水戸黄門の印籠も、馬体に入れるムチも、「ここぞ」という時に使うからその効果が増す。実際、大谷の疲労や調整を考えれば、登板日全てで打者起用は難しい。必然として、使う回数は自ずと限られてくる。
ペナントレースは長い。全ての試合に勝つつもりでも、試合の持つ重要性には強弱が出てくる。42.195kmの中でも、力をセーブする場面もあれば、先頭集団に離されまいという踏ん張りどころがあり、一気に相手を離さんとする勝負所がある。ペナントレースの中でも、必ずキーとなる試合が出てくる。
大谷のリアル二刀流は、その強弱を伝えるメッセージになったのではないか?
切り札であるからこそ、大谷がリアル二刀流で臨む試合は、チームに対して、この試合は大事だ、この試合は絶対に落とせないという無言のメッセージになりえる。
そして、その無言のメッセージが、同時にチームのモチベーションを1段階上げるスイッチになったのではないか?
9月21日。ペナントレース終盤にゲーム差なしで迎えたソフトバンクとの首位決戦。この天下分け目の大一番で、栗山監督は、7月3日以来となるリアル二刀流を解禁。大谷は8番投手で先発し8回1失点。チームはセンター陽岱鋼の2度のファインプレーも飛び出すなど2−1で勝利し、優勝の潮目となる大一番をモノにした。
今シーズン、大谷がリアル二刀流で出場した試合は実に7戦全勝。切り札の効能を遺憾なく発揮した。大接戦となったファイターズとソフトバンクの紙一重の差。それは、ペナントレースに強弱を付け、チームのモチベーションを上げるスイッチの有無だったような気がする。
栗山監督は大谷のリアル二刀流を、チームのモチベーションとしてうまく活用していた。
控えめに仮説としたけれど、僕の中では確信に近い。たまたま結果としてそうなったとは思えない。それぐらい、栗山監督のモチベーターぶりは僕が最近見た指揮官の中で突出していた。