情熱のカムアラウンド

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タイが日本に残してくれたもの 〜女子バレーボール五輪世界最終予選〜

少し予想外なことが起きすぎて、困惑した。

 

先日まで開催されていた、女子バレーボール五輪世界最終予選。日本代表は全体の3位、アジア出場国中1位の成績でリオ五輪出場権を決めた。

 

五輪出場権が与えられるのは、アジアで最も成績の良かった1チームと、それを除いた上位3カ国。実質、枠は4つ。日本の世界ランクは、今大会最上位の5位。出場権獲得自体は、たやすいミッションと思っていた。

 

しかし蓋を開けてみれば、イタリアとオランダの残り2戦に、1−3ないし0−3で負けていれば出場権を逃すところまで追い込まれた。テレビ局が大袈裟に煽っているように感じていた“五輪出場をかけた大一番”。それが、誇大宣伝になることはなかった。

 

予想外の始まりは第3戦。真鍋ジャパンになって以来、17戦16勝だった韓国戦に負けてしまったことだった。そして、続く第4戦。レッドカードの2点を“いただいた”おかげで勝利を拾ったタイ戦の大苦戦。

 

タイは終始先にセットを奪い、15点先取の最終セットは、途中12-6で大きくリード。試合が揺り動いたのは、タイが12-8から遅延行為によるレッドカードで1点を取られてから。12-13の場面で、再びタイにレッドカードが出て12-14。もし、タブレットによる選手交代のシステムに問題がなければ、審判団とタイ監督の意思疎通が問題なくできていたら、この逆転劇はなかったと言っていい。

 

試合後の記者会見場で、タイの選手達は泣いていたという。それもそのはずだ。気の毒すぎてかける言葉が見当たらない。選手交代のシステムや監督に敗因を求める事はできたとしても、コートにいたタイの選手達に敗因はまったくなかった。日本は完全なる負け試合だった。正直、冷めた。疑惑の勝利なのか否かなんてわからない。しかし、スコア的に大熱戦なのに、これほど興奮が冷めてしまうバレーボールの試合。多分、私が生きてるうちにお目にかかることはないだろう。

 

「最終予選のようなバレーをしていては、五輪本大会では間違いなくメダルは無理だと現在は思っています」

終戦となったオランダ戦後。真鍋監督はそうコメントしている。キャプテンの木村沙織も、「正直、今のチームではまだ難しい。しっかり準備をしたい」と反省を口にした。

 

私もそう思う。失礼ながら、この最終予選の出場国は、五輪でメダルを狙う“第2ないし第3グループ”。世界ランク1〜4位のアメリカ、中国、ブラジル、ロシアに加え、昨年のワールドカップ準優勝のセルビアといった“第1グループ”はいない。少なくともロンドン五輪銅メダル以上の成績を目指しているなら、1つの勝利に一喜一憂する位置づけの大会ではなかった。だからこそ、監督や選手、そして解説者やファンも、五輪出場を喜ぶよりも苦戦の要因を探り、五輪本番までの課題探しをしている。

 

もちろん、それは大事な作業なのだが、苦戦の要因を自分達に求め、これからの課題を見出すだけでは少々足りない気がしている。自分達に原因があったという自分本位な反省は、ともすれば相手へのリスペクトを欠き、もう1つの視点を見逃す事になりかねない。

 

“相手のどこが良かったのか? ”という視点。

 

実のところ、タイ戦はあそこまでとは思わなかったが、苦戦するのではないだろうかとは思っていた。そして、苦しんで欲しいとひそかに期待していた。

 

なぜならば、タイは五輪の日本だからである。

 

日本が五輪でメダルを懸けて戦う強豪国は、ほぼ間違いなく日本よりも高さというアドバンテージを持っている。世界一のレシーブ力やサービス力を土台として掲げたのも全ては、自分達よりも高さのある相手にどう対抗するか? というテーマに対する答えの1つに他ならない。

 

それならば、平均身長で他国に劣り日本よりも低い今大会のタイは、まさに五輪の仮想日本であり、彼女達よりも高さで上回っていた日本を含めたライバル国は、五輪で日本が相手にしなければならない仮想強豪国だとは考えられないだろうか?

 

タイが日本に残してくれたものは、もちろん白星や出場権なんかではない。日本が五輪で強豪国と戦う上でのヒントなのだと。

 

タイは、オランダにこそストレート負けしたものの、イタリアから1セットを奪った。日本戦において勝者にふさわしかったのは彼女達であったし、その敗戦ショックの中で、日本より平均身長で上回る韓国に勝利し、最後まで五輪出場の望みを捨てない戦いぶりを見せてくれた。

 

タイが日本戦で見せてくれたバレーボール。2段トス合戦のラリーになれば日本が優勢だったが、それ以外では所々で日本を上回っていた。Bパスになっても、ラリーの最中でも使い切れるセンター攻撃。アタッカーを疲弊させず、しっかりと助走を取れる場面で使う両サイドの攻撃は、身長差とパワーのハンデを補うキレがあった。充分なスパイクが打てない時も空いているコースに返し、日本が2段トスになるように持っていく丁寧さも忘れていなかった。対する日本は、攻撃に気がいき過ぎたのか、追い込まれて思い切れないのか、Aパスが短くなりBパスになってしまう雑なレシーブが散見した。強引に上から打ってやれというスパイクはアタック成功率を下げ、タイが望むところの試合展開となっていった。

 

今大会の日本に、決して収穫がなかったとは言わない。しっかりと相手を引きつける囮の動きや、ブロックされた場合のレシーブポジションをさぼらない荒木絵里香のプレーぶりは光ったし、残り2戦の木村沙織の力強いスパイクは頼もしかった。古賀紗理那に変わってスタメンに名を連ねた石井優希や鍋谷友理枝の活躍は、日本に使えるコマを増やした。

 

さらに希望的観測を加えれば、五輪本大会の為に秘策を用意していることだって考えられる。関係者やマスコミにも箝口令をひき、今大会は手の内を見せずに臨んでいた、なんてこともあり得なくもない。しかし、もし秘策がなかったら、やはり五輪は苦しい。この最終予選には、ブラジルや中国といった強豪国が偵察に訪れていたと聞いた。バレーボールの五輪日程は8月6日〜21日。開幕まで残り3ヶ月を切っている。データバレーが進むなかで、さしたる秘策もなく研究されつくしてしまっては、劇的な飛躍は難しい。

 

それに比べ、五輪出場を逃したタイは、強豪国の研究対象から外れる可能性が高い。専門家の方々が検証すれば、私なんかが試合を見た感想より、もっといいヒントが出てくるだろう。

 

ここはひとまず、自分本位な反省に終始することは程々にして、タイに習ってみてはどうだろうか? そんな日本が、リオで格上の強豪国相手に、高さのハンデを補う素晴らしい戦いを見せることができたら。それは、日本の財産にもなるし、今後のタイのバレーボールに希望と勇気を与えることにもなる。

 

タイが図らずも残していった夢の残骸。それを拾い集めて五輪本大会で日本が形にすること。五輪出場を逃したタイの悲しみは消えないだろうが、今の私が思いつく最善の恩返しである。