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足りなかったチームの一体感と繊細すぎたAパスありきのコンセプト 〜リオオリンピック 女子バレーボール〜

オリンピックはメダルを取ったか否かが全てではありません。

メダル獲得数が過去最高となったリオオリンピック。団体球技は苦戦したという見方もありますが、健闘ぶりも目立ちました。

 

32年ぶりに出場した水球男子は、初戦の世界選手権3位のギリシャをあと一歩まで追いつめる大健闘。7人制男子ラグビーは、世界ランク3位のニュージーランドを破る大金星を上げ、英国とは2点差の大健闘。準々決勝でもフランスを破りました。バスケットボール女子は、全て世界ランク上位との予選グループを3勝2敗で通過し、準々決勝では世界ランク1位の王者アメリカと前半好勝負を演じました。

 

そんな中で一番残念だったのは、女子バレーボール。その戦いぶりを振り返ります。

 

 

 

・残念だったのは、あまりに準備不足だったから

 

初戦の韓国戦で負けたのは残念でした。それは単なる星勘定のためではありません。予選リーグ6チームのうち4チームは決勝トーナメントに進めます。現状、ブラジルとロシアに勝利は計算できなくても、実力的に劣るカメルーンとアルゼンチンにはある程度計算できました。下位での突破は、決勝トーナメントでもう1つの予選リーグの上位チームと当たるので厳しいことは厳しい。しかし、相手がアメリカになろうが中国になろうがセルビアになろうが、厳しさは大差ないのです。

 

残念だったのは、オリンピック最終予選で負けた教訓が生かされず、大きな変化もなく敗戦してしまったことです。特に気になったのは、センター線を使えない攻撃とレセプション(サーブレシーブ)の乱れ。セッター宮下遥は極端なくらい、センター線を使わずにサイドの長岡望悠木村沙織選手を使い続け、大事なセットの終盤でマークされてしまい機能しなくなる。また、不安定なレセプションによって、コンビネーションバレーを展開できない。あまりに準備不足のままオリンピックを迎えてしまったことを露呈してしまいました。

 

センター線の攻撃は、安定したレセプションがあって機能するという部分はあります。とはいえ、仮にセンターを使ってもコンビが合うシーンは多くありませんでした。レセプションが良くても使わなかった。使ってみてもコンビが合わなかった。それがオリンピック本番で見えた現実でした。

 

そして、レセプションの乱れた最大の原因は、“コートの塗り絵”が徹底されていなかったこと。コート上にはっきりとした守備範囲の区分ができていなかった為に、お互いがお見合いしてしまう失点や、レシーブに入る動作の遅れが出てしまいました。それは、ブロックされた時のフォローや相手のフェイントに対するレシーブにも出ていたように思います。

 

 

 

・最適解の模索と応急処置の末のアメリカ戦は現状の限界値

 

それからの日本の試合は、どの6人がベストメンバーなのか? という最適解の模索でした。宮下遥のトスワークが潰れると田代佳奈美に。石井優希がレセプションで崩されると鍋谷友理枝に。マークが厳しくなり長岡望悠が止まり始めると迫田さおりへ。またその逆もしかり。その交代は、調子の善し悪しや対戦相手との相性、目先を変えるという意味よりも、攻撃力と守備力のベストバランスを見出すためであったように見えました。現状でメダル獲得に対してチャレンジャーの立ち位置であるチームが、オリンピックの本番という段階で必死に最適解を探し当てなければならなかったという現実は辛いものがありました。

 

予選突破後の準々決勝までに求め続けた最適解は、田代佳奈美とスパイカーとの呼吸の乱れが致命傷になり始めると宮下遥へ。鍋谷友理枝が入っても全体のレセプションが大幅に改善しないと石井優希に落ち着きました。そして、得点源の長岡望悠をメインにしつつ好調の迫田さおりを併用していく。結局、初戦の韓国戦のスタメンに戻りはしましたが、他の選手にも使えるメドが立ったことはプラス材料だったかもしれません。

 

また、コンビネーションは不十分ではあったものの、使う回数が幾分か増えたセンター線の攻撃。不安定さは残るものの、初戦に比べればコートの塗り絵が多少進んだレセプション。今できるだけの応急処置は施した感がしました。

 

予選突破後の準々決勝は、もう1つの予選リーグ1位アメリカ戦。結果は、0−3のストレート負け。タッチネットを何度も取られるなど、アメリカは決して隙のない相手ではありませんでした。しかし、最適解を求め続け、現時点でやれるだけの応急処置を施して臨んだ一戦。アメリカ戦は今できる限りの精一杯だったと思います。

 

 

 

・足りなかったチームの一体感

 

高さ、パワー、技術で強豪国に劣っていたとしても、オリンピックという大舞台のプレッシャーがあったとしても、日本はもう少しできたはずなんじゃないか? という思いがあります。

 

センター線を見せていかないと、後々の局面で苦しくなること。そんなことは、素人の僕なんかが言わなくても代表選手である宮下遥はわかっているはず。石井優希Vリーグでそこまでレセプションが悪かったイメージはなかったし、佐藤あり紗だって本来はもっとできるはず。相手国のサーブが、Vリーグと比べて格段に強力とも感じませんでした。また、Vリーグもオフシーズンで代表として活動する準備期間は、それなりにあったはず。それなのに、

 

なぜ、センター線のコンビが合わないのか?

なぜ、コートの塗り絵ができなかったのか?

 

となると、チームとしての一体感が足りなかったのかなと思います。

 

「チームワークだったり、思いやりというところとか仲間同士の絆というところは、4年間自分がキャプテンをやらせてもらってから大切にしてきた」

「目標を達成できなかったところは本当に悔しいですけど全員で戦えた」

 

アメリカ戦後、キャプテンであった木村沙織はそうコメントしています。ただ、それぞれが積極的に意思疎通を図り、チームとして問題を共有して解決しようとする意識は足りなかったように感じます。以前に、宮下遥が朝の特別練習をしているのを木村沙織が知ってトスを打ちにきた、というエピソードを聞いたことがあります。いい話だなと思っていましたが、今考えると、他の選手は本当に知らなかったのか? 木村沙織は誰も誘わなかったのか? と。個人が自分の役割だけに集中し、戦う集団としての一体感を生み出せなかった。それがロンドン五輪メンバーとの違いだったのかもしれません。

 

 

 

・繊細すぎたAパスありきのコンセプト

 

バレーボールの試合中、解説者が「Aパス」「Bパス」という言葉を使っているのを聞いたことがあるかと思います。簡単に言うとレシーブの質です。セッターが待ち構えているポジションにきっちり返るレシーブをAパス、セッターが少し動かないとトスができないようなレシーブをBパスといいます。

 

Aパスが返れば、セッターは動かずにトスを上げられるので、近くにいるセンター陣を使って様々なクイックやブロード(移動攻撃)を仕掛けやすくなります。加えて両サイドアタッカーを使ったり、バックアタックを使ったりと攻撃の選択肢が増えるので、相手ブロックに的を絞らせないように攻撃を散らすことができ、得点率が高くなります。

 

じゃあ、レセプションが少し乱れてBパスになったら?

試合を見る限り、ここに対する方策を日本はほとんど持っていませんでした。

 

一般的に、Bパスになると、セッターがネット際から下りてきたり、左右に動いたりしてトスを上げるので、クイックが使いづらくなるなど攻撃の選択肢が減り、相手のブロックが的を絞りやすくなります。ただ、高さやパワー不足を補うためなら、Bパスになった時でも相手ブロックに的を絞らせない攻撃のバリエーションを持っていて欲しかった。Bパスになっても縦のクイックやブロードを使えるコンビネーションにこだわって欲しかった。最終予選で対戦したタイや初戦で敗れた韓国だってやっていたのだから。

 

また、Aパスありきのコンセプトは、レセプションにも心理的影響を与えたような気がします。海外の強豪国は、Aパスが理想ではあるもののBパスになってもOKラインというスタンスに見えました。それよりも、山なりのふわっとしたボールを返して、セッターがボールの下に入り込む時間を与えることを第一に考えています。最低限BパスでもOKというのに対して、Aパスを必要とされるプレッシャーの差。それは、想像以上だったかもしれません。

 

日本が目標としてきた「4つの世界一」。

その1つがレセプションでした(他は、サーブ、ディグ(スパイクレシーブ)、ミスによる失点の少なさ)。

世界に勝つために緻密さを求めたことは、皮肉にもAパスありきの繊細すぎるコンセプトに傾き、結果として自らの引き出しを狭めてしまったように思えてなりません。

 

 

 

 

ロンドンオリンピック以上のいいメダルの色を目指した4年間。しかし、それは日本のコンビバレーを支えた竹下佳江を失うところから始まったマイナスからのスタートでした。格下に勝利した予選リーグ突破からの準々決勝敗退は、ロンドン以前の北京やアテネと同じ成績。真鍋監督も退任し、代表のコートを去る主力メンバーもいるでしょう。名実共にもう一度挑戦者からのスタートになります。

 

「世界と同じことをしていても勝てないと、いろんなことに挑戦してきた」

アメリカ戦後、真鍋監督はそう言っていました。それは、とても必要なことです。そして、同時に世界と同じことができるようにチームを近づけていくことも今後必要になってくるでしょう。

 

昨年の9月。体格的な不利から目を背けず、筋力や持久力を世界基準に近づけることに取り組んだ集団は、ラグビー発祥の地イングランドで、歴史的な快挙をやってのけました。彼らを率いた指揮官エディ・ジョーンズは次のような言葉を残しています。

 

体が小さいことは事実ですが、それを変えることはできません。

しかし、強くなることはできます。速くもなれます。俊敏性を伸ばすことも、賢くなることもできます。

「can’t do」で考えるのではなく、「can do」を考えるのです。

 

高さ、パワー、技術全ての面でのレベルアップ。強豪国との差を考えると、4年という時間は決して長くありません。しかし、できないことでもありません。そして、エディ・ジョーンズはこうも言っています。

 

日本人はチームワークに優れています。

日本のチームワークを重んじる伝統はアドバンテージになります。

 

日本独自のスタイルと緻密さを追い求めながらも、一方でそれを補うたくましさを身につける。そんな日本女子バレーの今後を期待したいと思います。