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一段階引き上がった攻守の切り替え 〜サウジ戦雑感〜

昨日、友人からLINEメールが届きました。

 

「手短でいいので伺いたい。サウジ戦の総評は如何に? 原口のハードワークが光っていたよね?」

 

勝手に“執筆依頼”と受け取って書き始めました。単なる感想になるのは覚悟の上で。

 

結論から言ってしまうと、最終予選の中では一番良かったんじゃないかなと思っています。その一番の理由は、攻守の切り替えの速さが段違いに改善されたからです。

 

正直に言って、ここのところサッカーの記事を書くことを少しためらっていました。それは、10月のイラク、オーストラリア戦後に感じた、あまりにも極端な二元論に偏る空気が窮屈だったからです。

 

ハリルホジッチ反対派は、代表のカウンターサッカーを批判し、結果重視の試合内容を批判する。不安を煽り立てるマスコミに流されている。

 

ハリルホジッチ擁護派は、代表のカウンターサッカーに理解を示し、結果にこだわった内容を評価する。マスコミに流されず現実を見ている。

 

簡単に言うと、こんな感じ。

僕は10月のイラク、オーストラリア戦後、“勝敗ではなく、試合内容に興奮したい”と書きました。僕自体、ハリルホジッチ解任派でもなく続投派でもない。カウンターサッカーを否定するつもりも、ポゼッションサッカーを支持するつもりもない。相手からボールを奪って攻撃が始まるという意味では、全てカウンターだ。しかし、“試合内容に興奮したい”という言葉で、あなたはハリルホジッチ反対派に当てはまります、みたいな空気。

 

ただ、極端な二元論に当てはめられる空気を窮屈に感じた一方で、個人がどう感じ、どう意見をするのかも自由。過程なんかどうでもいいと言わんばかりの論調には、さすがに閉口しましたが。

 

少し横道にそれてしまいました。とにかく、自分の表現が分かりづらいものだったかと反省しつつ、なぜ自分が“試合内容に興奮したい”と感じてしまったのかをしばらく考えていました。

 

そこから出た、私なりの結論は、“攻守の切り替えの速さ”でした。

 

Jリーグの試合を観察すると、海外サッカーに比べて極めて牧歌的だと改めて感じました。テンポが遅くて、止まっている選手が多い。テンポが上がって運動量が求められたら、技術とスタミナは維持できるのか? と。ハリルホジッチが厳しい環境に身を置く海外組を評価する気持ちもある程度理解できます。

 

そして、オーストラリア戦を見返して一番気になったのは、オーストラリアが日本の守備の網に引っかかってマイボールになった直後。オーストラリアが守備に切り替えてプレッシャーをかけると、苦し紛れにロングボールか、つなごうとしてパスミスになる。足りないと感じたのは2つ。1つは、プレッシャーを感じる状態で、素早い状況判断&パスを正確に繋ぐボールホルダー自身のスキル。そして、もっと足りないのは、ボールホルダーのパスコースを作ってあげる周囲の動き。守備重視のカウンターサッカーでもかまわない。だけど。なぜ、パスコースを作ってあげない!? なぜ、スペースに走り出さない!? なぜ、ボールを奪って一休みしている!?

 

多分、それが試合内容に興奮できなかった正体なんじゃないかと。

 

ポゼッションサッカーという言葉と固定化されたメンバーの裏で、密かに進行していたのは、守から攻への切り替えの速さの鈍化。引いた相手をどう崩すのか? というアジアでのテーマも一因かもしれない。また、メンバーが固定化され脅かされることのない状況では、代表のレギュラーに求められるプレーのスタンダードが中々上がらなかったのではないか? そう考えると、ハリルホジッチが求める縦に速いサッカーが中々浸透しないのも一応の合点がいきます。オーストラリア戦では、自陣にブロックを敷く→マイボールになる→相手のプレッシャーに負ける→自陣にブロックを敷き直す、の繰り返しに終始しました。監督云々戦術云々以前に、そもそも守から攻への切り替えが遅いのだから、カウンターサッカーを試みても、カウンター自体が発動しないわけだと。

 

そんなこともあり、サウジ戦は攻守の切り替えに注目していました。そして、それは予想以上にテンションの高いものでした。守から攻への切り替えの速さは、その判断スピードの速さも相まって、サウジの出足を上回る場面を多く作り、相手の対応を後手に回らせていたように思います。また、攻から守の切り替えの速さが、相手からカウンターを繰り出す余裕を奪います。切り替えが遅かったら、サウジがドリブルで仕掛ける場面や、精度の高い危険なパスは、より多く出ていたかもしれません。

 

パスを出した後も止まらずに動いて次の受け手になり続けた清武選手。多少荒っぽいパスでも収めてくれる大迫選手の頼もしさ。これらは、守から攻への切り替えをスムーズにするのに一役買っていました。そして、彼らだけでなくチーム全体として攻守の切り替えと判断スピードを上げることができていたように思います。私は、この日の代表に今まで以上の気迫を感じました。そう映ったのは、相手ボールになった瞬間にすぐさま奪い返さんとし、マイボールになった瞬間すぐさま襲いかからんとする獰猛さゆえではないかと思うのです。

 

代表定着とレギュラーを奪い取るために、既存のレギュラー以上の何かを残さんと攻守に奮闘する新戦力。そして、W杯出場のために何としてもこの試合を勝たなければという、チーム全体の強い意識。その2つが、代表における攻守の切り替えのスタンダードを一段階引き上げたように思います。気負いも見られた。急ぎ過ぎる部分もあった。それを差し引いても、一段階引き上がった切り替えの速さはプラス要因だったのではないでしょうか?

 

「自分が出られなければ、割って入ろうと努力する。そういう立ち位置に戻った(岡崎)」

「明日は我が身と思う部分もある(長谷部)」

嬉しいのは、今まで次戦の抱負を語っていた既存のレギュラーが、自身の立場に対する危機感を口にしたこと。大迫、原口、久保、山口、長友。最終予選初戦のUAE戦からは、怪我で離脱した長友選手を含めると、先発が5人入れ替わっています。誰が出て誰が外れたかよりも大事なこと。それは、競争原理が正常に働きだしたことで、既存のレギュラーに対しても求められるプレーのスタンダードが上がったことです。これくらいできなければ代表のレギュラーは勝ち取れないというスタンダードが。仮に劣っていたとしても、それ以外の部分で納得させるだけの違いを産み出せる何かがなければと。

 

監督云々よりも、戦術云々よりも、肝となる攻守の切り替え。

それは、W杯出場への危機感と正常に機能した競争原理によって一段階引き上がりました。次なる来年3月のUAE戦までに、所属チームで置かれた状況や好不調が変化する選手もいるでしょう。それでも、競争原理が正常に働き、この日一段階引き上がった代表のスタンダードを落とさなければ。そうすれば、今後に可能性の持てる代表の姿が見られるのではないかなと期待しています。