情熱のカムアラウンド

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心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

LS北見を支えた「和」&「酔えぬ勝利の美酒」SC軽井沢クラブ 〜日本カーリング選手権決勝〜

女子決勝

富士急 010002020× 5

LS北見 103210101× 9

 

「頑張ってきて良かったですね! おめでとうございます! 」

表彰式後、多くの人達で混み合っているロビーの通路。時折立ち止まって挨拶をしながら選手控室に向かう、LS北見のサード吉田知那美に声をかけた。

 

「ありがとうございます! 本当にありがとうございます! 」

彼女は、しっかりこちらを向いて立ち止まると、顔をくしゃくしゃにして気取らない笑顔で応えてくれた。

 

気負いのない自然体の明るさがチームカラーのLS北見。その中でも、ひときわ明るいサードの吉田知那美は、チームのムードメーカーだ。決勝直前の練習では、何事か話しかけてチームメイトを笑わせ、試合前のセレモニーでは観客に終始笑顔でこたえていた。しかしその笑顔は、優勝後のインタビューで涙に変わる。

 

「みんなそれぞれ試合で勝った負けた以外の悔しい気持ちを持って、カーリング人生をこのチームに捧げようと一生懸命やった結果だなと思っている」

 

その言葉に、反骨心を見た気がした。彼女は、ソチ五輪後に新メンバーを迎えた北海道銀行から押し出される形で退団。スキップ藤澤五月は、中部電力時代、たった一度の代表決定戦敗戦でソチ五輪を逃している。チーム結成時からのメンバー、リード吉田夕梨花、セカンド鈴木夕湖、今大会リザーブ本橋麻里は、昨年9月のパシフィックアジア選手権代表決定戦に勝つまで、6年間日本代表に手が届かなかった。それだけではない。今大会で優勝を逃せば、昨年のパシフィックアジア選手権で自分達が勝ち取ってきた、世界選手権出場権まで奪われてしまっていたのだから。

 

とはいえ、反骨心は何かを成し遂げる為の原動力でしかない。それなら、パシフィックアジア代表決定戦で敗れた北海道銀行にも、決勝を戦った富士急にも少なからずある。反骨心は、勝つための何かに昇華してこそ報われる。

 

その1つは、もちろん磨き上げた個々人の確かな技術力だ。調子の波が少ないリード吉田夕梨花とセカンド鈴木夕湖のセットアップ。そして的確なウェイトジャッジと力強いスイープ力。主導権を相手に渡さないサード吉田知那美の凌ぐショット。大崩れしないスキップ藤澤五月の確実なショット。予選リーグで青森県協会に苦戦し、北海道銀行に1敗は喫したものの、LS北見の大会全体を通じた安定感は際立っていた。

 

そして、決勝を観て感じさせられたもう1つ力。それは、その技術力を結集させる、強い「和」の力。

 

第6エンド、7−1とリードしていたLS北見は、セカンド鈴木夕湖の2投目を前にタイムアウトを取った。タイムアウトのタイミングよりも注目すべきは、両チームの残り時間(持ち時間は38分)。富士急の21:24に対し、LS北見は17:46。楽な試合展開に持ち込めているLS北見の方が、富士急よりも多く時間を消費していた。

 

LS北見は、ショットの合間でも、とにかく頻繁にコミュニケーションを取っていた。エンド中に、バイススキップ(副主将)とスキップが作戦を話し合ったり、リードとセカンドがスイープ後に話し合うのは、他のチームでもよくある風景。しかし、LS北見のコミュニケーションは、それだけでは終わらない。1つのショットに対して即時に情報を共有し合い、作戦に対しても全員で納得し合う。

 

例えば、第2エンド。ハウス奥でショットの指示をするスキップの藤澤五月の方から、「どっちがいい? 」と投げるセカンドの鈴木夕湖にショットウェイトの選択を委ねていた。第3エンドでは、サード吉田知那美のショットが思い通りにいかず、セカンドの鈴木夕湖と話していると、すぐにハウス後ろからスキップの藤澤五月が駆けつけ話し合っていた。また、第6エンドでは、サードの吉田知那美とスキップの藤澤五月がハウス内で作戦を話し合っていると、リードの吉田夕梨花とセカンドの鈴木夕湖が駆け寄り、全員で相談し合っていた。

 

「この大会、チームメイトに助けられて勝った優勝だったので、私があんまり拳を上げて喜ぶような感じではなくて、本当にチームメイトに感謝したい」

 

大会のMVPにも選ばれた、スキップの藤澤五月は、優勝インタビューでそう話している。スキップが引っ張ろうとしなくていいチームになっていた。スキップだけではない。何か問題があれば、ポジションの形式にとらわれず、全員で情報を共有し解決するLS北見は、個人が必要以上に責任を背負うのではなく、責任を分け合えるチームになっていた。

 

皆の総意でカーリングをする。それは、まるで相手が常に4対1の戦いを強いられているような感覚すら覚えた。さわやかさとは対照的な、固く一塊にバインドされたスクラムのような力強さを兼ね備えていた。

 

「和」は、しばしば外国人が用いる、日本人の精神を良く表す言葉。日本最高の「和」を引っ提げて、LS北見は、3月19日からカーリングの本場カナダで開催される女子世界選手権に挑む。普段着通りのプレーができれば、上位4チームによる決勝トーナメント進出、いや表彰台に立つ事すら決して高望みではないと、私は本気で思っている。

 

 

 

そして、最後に男子について少し。

 

男子決勝は、SC軽井沢クラブがチーム東京を6−3で降し、予選から無敗で日本選手権4連覇を決めた。女子決勝から観客が大分減った会場に、寂しい感じは否めなかった。しかし、それもやむなしと感じてしまった。予選リーグに関しては、全てを観ているわけではないから何とも言えない。ただ、プレーオフ以降に関しては、少なくとも私は、男子の試合でドキドキするような好ゲームに出会えなかった。

 

軽井沢クラブを追う一番手と見られていた札幌は予選4位。ギリギリでプレーオフ進出を決めたものの、プレーオフ初戦でチーム萩原に敗れ、準決勝にも進むことができなかった。SC軽井沢クラブ以外に全て勝利したチーム東京の健闘は讃えたい。しかし、男子カーリング界を考えると、複雑な思いになる。準優勝したチームが、仕事の合間を縫ってカーリングの練習に費やせた時間は、月2回だというのだから。

 

SC軽井沢クラブと他チームの実力差は想像以上だった。他チームと開きすぎている実力差ゆえに、測りにくかったSC軽井沢クラブ自体の実力。個人的には全くスキがなかったとは思えない。テイクショットの安定感はあった。しかし、不安定なセットアップは、決して少なくなかった。カムアラウンド(ガードストーンの後ろに回り込むショット)が、ガードストーンに当たってしまうミスもあった。

 

予選リーグ時の会場ロビー。知り合いの方に声をかけられていたSC軽井沢クラブのサード清水選手が、

「札幌戦や他の試合でもちょっとヤバいところがありましたし、プレーオフに向けて更に調子を上げていかないといけないと思います」

と話していたのを思い出す。

 

自らを戒める高い意識と感じていた。しかし、決勝まで見進めた後に感じたのは、少し違った。ヒット&ステイ(相手のストーンを打ち出して、自分のストーンをハウス内に留まらせるショット)に失敗し、相手のストーンを打ち出すテイクショットが、ストーンに当たらずスルーしてしまう他チームの不安定さ。悲しいことに、SC軽井沢クラブのミスが、致命的なミスとなることはなかった。彼らは、自分達のミスにつけこめるチームが存在しないゆえに、自らを戒めざるを得なかった。味わえぬ勝負の緊張感。決して酔えぬ勝利の美酒だった。

 

長野五輪以降、五輪出場から遠ざかっている男子カーリング界。SC軽井沢クラブと並び立つようなチームが出現し、国内で高いレベルの試合が観られるようになることが理想ではあるが、まだそれは難しい。となれば、期待されるのは、SC軽井沢クラブの平昌五輪出場によって関心度がアップし、競技熱が高まること。軽井沢クラブが背負っているものは、女子以上に大きい。

 

「僕達は、この日本選手権を、世界選手権への通過点として迎えていた」

「五輪ポイントがつく世界選手権で、少しでも上の順位になって、五輪ポイントだけで五輪に出場できるように頑張りたい」(スキップ両角友佑)

 

男子の世界選手権は、4月2日からスイスで開幕。五輪出場を目指す、SC軽井沢クラブの孤高の挑戦が始まる。

 

 

 

※ 日本カーリング選手権の観戦記は今回が最後になります。最後は、かなり遅れての更新となってしまい、記憶を掘り起こす作業に四苦八苦しました。やはり、“鉄は熱いうちに打て”だと猛省しています。話は変わりますが、女子の世界選手権は、20日の午前5時からNHK-BS1で放送されます(男子はまだわかりませんが)。ご興味ある方は、ご覧になってみてはいかがでしょうか?