情熱のカムアラウンド

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心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

コミュニケーションが生み出す、接戦に身を置く覚悟 〜カーリング女子世界選手権〜

◯7−5フィンランド

◯10−3イタリア⑫

◯6−1ロシア⑤

●4−11デンマーク

◯6−5韓国⑩

●4−7スイス②

◯8−4スウェーデン

◯8−1ドイツ⑪

◯7−5アメリカ⑧

※丸囲みの数字は世界ランキング(日本は世界ランキング9位)

 

現在、カナダで行われているカーリング女子世界選手権。日本代表として出場しているLS北見は、あと2試合を残して7勝2敗の予選1位タイ。いよいよ上位4チームによる決勝トーナメント進出が見えてきました。決勝トーナメントに進出すれば、日本勢としては2008年以来。

 

日本選手権で彼女達の強さを目の当たりにしていたので、それほどの驚きはないのですが、それにしても素晴らしい成績です。8戦目終了時点で、チームのショット成功率は、スイスと並んで1位。4人とも85%以上の高い数字を残しています。次々と精度の高いショットを決めていくさまは、解説の方々が「簡単にやってますけど、結構難しいショットなんです」と苦笑いで話すくらい。

 

 

「スイーパーとさっちゃん(藤澤五月)のコールに決めてもらった」(吉田夕梨花)

「チームとして決めるショットが決められたのが良かった」(鈴木夕湖)

「4人が納得してから、1つの石を投げている」(吉田知那美)

「私のショットは、ほぼスイーパーが決めてくれてる」(藤澤五月)

 

試合後のインタビューに答える彼女達から聞こえてくるのは、1つのショットを作り出すチームの総合力。投げ手は、スイープで調整できる範囲内のショット精度で石を投じる。スイーパーは、力強いスイープ力でその調整可能範囲を広げ、的確なウェイトジャッジをスキップに伝える。スキップは、的確なラインコールでスイーパーを動かし、より高精度のショットに導いていく。

 

誰が主役でもない。脇役もいない。それぞれが素晴らしい仕事をし、支え合った結晶が、大会ナンバー1のショット成功率を生み出しているのです。それを可能にしているのが密なコミュニケーション。

 

「もっと、コミュニケーションをとってアイスを早くつかめるように集中しなければ」

「コミュニケーション不足で、悪い形の負けだった」(藤澤五月)

 

敗れた試合後のインタビューでは、コミュニケーションの不足を敗因に挙げています。ショットの秒数を確認し、お互いの感覚を話し合いながら、アイスリーディングを深める。また、スキップの藤澤五月選手が作戦の選択に迷えば、バイススキップ吉田知那美選手が、スイーパーの鈴木夕湖吉田夕梨花が、それぞれの情報を持ち寄ってベターな作戦を練り上げていく。密なコミュニケーションが作り上げる、4人総意のカーリング。これこそが彼女達の強さの生命線と言っても過言ではないでしょう。

 

そして、密なコミュニケーションが可能にする、彼女達のもう1つの強さ。それは、過剰な欲を抑えて戦える我慢強さ。

 

人間には、少なからず欲があります。負けていれば、早く追いつきたい。接戦であれば、早く抜け出したい。勝っていれば、早く勝負を決めたい。そんな欲が、少しでも完璧なショットを欲張り、大量点を取ろうと難しい作戦を取らせ、スチール(先攻チームが得点を取ること)することへの誘惑を生む。

 

彼女達にもそんな試合がありました。それこそが、コミュニケーション不足を反省したデンマーク戦。ガードストーンの後ろに隠そうと狙ったヒット&ロール(相手の石を打って、なおかつ自分の石を動かすショット)は、ハウスをオーバー。アイスリーディングが深まっていない状況で、難しいことを選択した作戦が決まらない。少しでも完璧に決めたい。少しでも早く点差を縮めたい。コミュニケーションが不足する状況では抑えが利かなかった、個々人に芽生えた過剰な欲。

 

しかし、おそらくこの好成績のキーポイントとなったであろう次戦の韓国戦。「コミュニケーションを無くさないように心がけた(藤澤五月)」姿勢が、本来の我慢強い自分達の戦い方を取り戻します。

 

試合序盤は、デンマーク戦の悪い流れを引きずっていました。読めないアイスの中で、少しの無理がショットを狂わせます。韓国のショット精度も高く、打開策を見いだせない苦しいエンドが続きます。

 

しかし、コミュニケーションを無くさないように心がけた成果が試合後半に現れます。難しいショットを決めて一気に打開しようと逃げるのではなく、地道なショットで粘り続け、最後のスキップ勝負まで持ち込んでいく。無理にスチールを狙わずに相手に1点を与える勇気。相手のミスが出るまで、2点パターンを待ち続ける根気強さ。密かに芽生えた過剰な欲を打ち消したのは、チームメイトの冷静なアドバイス。苦しいことから逃げようとする気持ちを抑え、接戦に身を置く覚悟こそ、彼女達のコミュニケーションが生み出す出色の勝負強さ。

 

「自分達がすべきことをしっかりできるように」(吉田知那美)

 

スイス戦は、相手の完璧な試合運びに負けてしまいましたが、その後は3連勝。確実なショットを地道に積み重ねる彼女達の我慢比べに、根負けしたのは相手チーム。それは、難しいことをせずにできる事を確実にやって、根負けした相手を振り落としていく彼女達本来の姿でした。

 

そして、先ほど行われた10試合目。7勝2敗で並んでいた世界ランキング4位のスコットランドに、10−4で快勝し、8勝目。

 

「今は試合がすごく楽しいですし、幸せです」

 

アメリカ戦後のインタビューで、初の世界選手権で中盤を迎えた精神面と肉体面の疲れについて聞かれた、リードの吉田夕梨花選手は笑顔でそう答えました。

 

世界選手権という大舞台で、強豪国とカーリングができる楽しさと喜び。彼女達の快進撃が止む気配は、まだ無さそうです。