情熱のカムアラウンド

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メダルの扉開けた! 実力キラリ! 3拍子揃った高次元のセカンド鈴木夕湖

同じ氷上の戦いでも、ここまで違うのかと思い知らされました。

 

先週末まで行われていた世界フィギュアと、その1週間前のカーリング女子世界選手権。その報道量の差。とはいえ、その量の差にケチをつけるつもりは、毛頭ありません。フィギュアスケートカーリング。そもそも日本において関心度が違いすぎる。

 

残念なのは、量よりもそのタイミング。大会前から最終日まで連日報道されていた世界フィギュア。対して、カーリング女子世界選手権の報道は、最終日までほぼ皆無に近いもの。日本カーリング史上初のメダル獲得が報道された時には、既に大会は終わってしまっていたのです。最終日の決勝スイス戦は、日曜日の日本時間午前10時。それほど視聴が難しい時間帯ではなかったのに。

 

知ろうとする努力をさほど要することなく溢れる情報。それは、多少なりとも関心の薄い人をTV中継に向かわせるはず。ラグビーW杯の南アフリカ戦しかり、大相撲初場所琴奨菊しかり。

 

もし、初のメダルが確定した準決勝ロシア戦後に、彼女達の快挙が報道されていたら。もう少し、多くの人に見てもらえたかもしれない。カーリングの面白さを。決勝戦の最後に痛恨のミスショットをして涙を流した、スキップの藤澤五月がそれまで素晴らしいショットを決め続けていたことも。

 

そして、世界トップに肩を並べるセカンドの誕生も。

 

 

 

今回のカーリング女子世界選手権で、日本史上初のメダルという快挙を成し遂げたLS北見(日本は過去21回の出場で、2度の4位が最高成績)。しかも、この好成績で獲得した、五輪出場枠を争うオリンピックポイントは12ポイント。五輪当確ラインが9ないし10ポイントと予想されている状況で、日本の平昌五輪出場権をほぼ手中に引き寄せました。

 

準決勝のロシア戦に勝って日本カーリング界の歴史が動いた日。感想を求められた解説の石崎琴美さんは言いました。

 

「本当にすごいという言葉しかない」

 

予選リーグと決勝トーナメントを合わせ10勝4敗。決勝を含め3度敗れたスイスを除けば、10勝1敗の好成績。確かな実力のないチームが、勢いだけで残せる成績ではありません。

 

成績も見事なら、その内容も見事。予選リーグのチームショット成功率は、全12チーム中1位。高い個々の能力と、コミュニケーションが支えるチームワークが噛み合った総合力。それは、快進撃というよりむしろ順当勝ちと思わせる安定感でした。

 

その快挙のなかで、特に注目したいのがセカンドの鈴木夕湖(ゆうみ)選手24歳。インタビューに答えるマイペースで天然っぽい姿は、むしろ物怖じしない頼もしささえ感じさせました。

 

ゆうみ! ゆうみ! 最後まで! 最後まで! 最後まで! 」

 

そんなチームメイトの声を受けて、顔を紅潮させながら懸命のスイープ(ストーンの前をブラシで掃くこと)。スイープを終えた後に、肩で大きく息をする姿を何度見たことか。

 

彼女の身長は、海外選手に比べ小柄な日本チームの中でも、最も小さい145cm。しかし、体幹の強さを感じる鍛えられた身体が生み出す、しっかり腰の入ったスイープは、どこのセカンドにも負けない力強さ。1年前の日本選手権で、解説の敦賀信人さんが、「パワーはそんなにないですけど……」と前置きして話していたのが嘘のよう。

 

今から1年前。北海道銀行が日本代表として出場した前回の世界選手権。世界トップとの差を感じた3点を、『確かな手応えと痛感したあと一歩』と題したブログの中で、今後の課題として紹介させていただきました。それは、

 

①フロント陣(リード、セカンド)の精度

②スキップの安定感

③オフェンシブな戦術

 

今大会のLS北見は、この世界トップとの差を感じた3点を見事に埋めてみせました。②に関しては、もちろんスキップの藤澤五月選手。そして、①と③に関して大きく貢献したのが、セカンド鈴木夕湖選手。それは、前述した力強いスイープの「掃く」能力とともにキラリと光った、正確に「読む」「投げる」能力。

 

・正確に「読む」ウェイトジャッジ

 

ウェイトジャッジとは、投げたストーンがどこに止まるか? を判断することで、スイーピングと同じくらい重要なスイーパーの仕事。スイーパーは、投げたストーンが有効となるホッグラインからバックラインまでを1〜10の数字で区切り、だいたいどこにストーンが止まるかをハウス奥にいるスキップに伝えていきます。その情報を元にして、スキップは、ラインコール(スイーパーに指示を出すこと)をし、又プランを変更したりして、高いショット精度に導いていくのです。

 

日本選手権の時から感じていたのですが、彼女のウェイトジャッジは、本当に正確。伝えた数字の地点でほぼストーンが止まる。力強いスイープ力だけにとどまらない、彼女の繊細なウェイトジャッジ。それは、スキップの藤澤五月選手のラインコールを助け、アイスリーディング(氷の滑り具合、曲がり具合を読むこと)で対戦チームに先んじる大きな力となっていました。

 

・正確に「投げる」多彩なショット

 

今大会、リード吉田夕梨花選手とセカンド鈴木夕湖選手のフロント陣は、スイーパーの仕事とともに、投げ手としても安定したセットアップ(セカンドまでの4投によるストーンの配置)でチームを支えました。そのフロント陣の精度の高さは、世界トップと互角以上に渡り合うことができた原動力。そして、鈴木夕湖選手の得手不得手のない多彩なショットは、幅広い作戦をチームにもたらしました。

 

通常、セカンドで多く使われるのは、相手のガードストーンやハウス内のストーンを打ち出すテイクショット。そのため、ドローショットの精度に課題を残す選手は少なくありません。それは、今年の日本選手権でも感じました。しかし、相手のミスにつけ込みたい時、リードで強いストーンが置けた時、相手に得点をリードされている時etc。そんな時に必要とされるのは、作戦をいち早くオフェンシブに切り替えるドローショットの精度。

 

ガードストーンの裏に回り込むカムアラウンド。強い石をしっかり隠すガードストーン。相手の石にぴったりとつけるフリーズ。今大会、鈴木夕湖選手はこれらのドローショットをテイクショットと遜色ない精度で決めてみせました。それは、スキップ藤澤五月選手が立てる作戦の選択肢を広げ、一方で対戦チームの作戦の選択肢を奪っていくLS北見の大きな武器でした。

 

勝負を決める存在のサードやスキップに比べると、勝負のお膳立てをするリードとセカンドは地味な役回り。しかし、「掃く」「読む」「投げる」の3拍子揃ったセカンド鈴木夕湖選手の働きは、キラリと光る最高のお膳立て。世界トップとの戦いにおいて、彼女は一番替えのきかない存在だったような気がしています。

 

 

 

昔、トリノ五輪帰りのチーム青森に勝って話題になった中学生チームがいたのをご存知な方はいらっしゃるでしょうか?

 

あの時スキップを務めていたのは、サードの吉田知那美選手。そして、リードを務めていたのが鈴木夕湖選手でした。あれからちょうど10年後。その2人の少女が、日本カーリング界の歴史を動かす物語を想像できたでしょうか?

 

しかし、五輪日本代表権はまだ決まったわけではありません。来年の日本選手権で他チームが優勝した場合は、そのチームと日本代表決定戦を争うことになっています。LS北見のライバルとなるであろうソチ五輪代表の北海道銀行。そして他の国内チームも、虎視眈々とその座をうかがっています。そして、セカンドの重要性を印象づけた鈴木夕湖選手の活躍は、国内セカンドのレベルを1段階引き上げるきっかけとなるかもしれません。