情熱のカムアラウンド

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確かな手応えと痛感したあと一歩〜カーリング女子世界選手権総括〜

4月に入り、プロ野球Jリーグはすっかりシーズンイン。夏期競技はリオデジャネイロ五輪を来年にひかえ、いよいよ五輪出場を意識した戦いが本格的に始動します。寒の戻りが長引いていますが、この寒さも落ち着けば、スポーツ観戦には優しい季節になってきます。

 

ということで、少し時間が経ってしまったのですが、時計の針を巻き戻し、3月に行われたカーリング女子世界選手権を振り返ります。

 

3月14日から9日間にわたって開催されたカーリング女子世界選手権は、スイスの優勝で幕を閉じ、日本は6勝5敗で6位という成績でした。大会前に、「ソチ五輪の5位が幻ではなかったという試合をしたい」とコメントしていた小笠原選手。ソチ五輪は、4勝5敗で10チーム中5位、今大会は勝ち越しての12チーム中6位。その思いは、ある程度達成出来たのではないでしょうか?

 

新メンバーの活躍、強豪相手の勝利、試合中に見せた涙と、色々な見どころの多かった大会。その戦いぶりから収穫と今後の課題を探ってみました。

 

①新メンバーの活躍

 

今大会、日本代表として参加した北海道銀行は、ソチ五輪後に2人の新メンバーを迎えました。1人は、リード(4人のうち、最初に投げる人)を務めた、近江谷杏菜選手。もう1人は、サード(3番目に投げる人)を務めた、吉村沙也香選手です。2人は、大会を通じて非常にいい働きを見せてくれました。

 

まず、近江谷選手。最終戦後には、「個人的には波があったので悔しい」とコメントしていましたが、大会全般を通じてまずまずの安定感だったのではないかなと思います。特に大会中盤、世界ランク格下の相手に苦戦した際には、相手に流れを渡さない彼女の安定したセットアップが光りました。リードは、チームがそのエンド(野球で言うイニングであり、カーリングは10エンドまでの合計得点で争われる)をどういうプランで進めるかの布石を打つ役割。そして、リードのショットは、その時のアイスコンディション(どれくらい曲がり、どれくらい滑るのか)を読む目安。バンクーバー五輪に参加した時は、サードだった彼女。まだリードとしての経験が多いわけではありません。今後は更なる安定感を身につけて飛躍して欲しいです。

 

そして、サードの吉村沙也香選手。今大会の日本代表のMVPは彼女と言ってもいいでしょう。彼女のショットは、チームの流れを一気に優勢に持ち込む勝ちパターンであり、悪い流れを断ち切る日本チームの強みでもありました。また、バイススキップ(副主将)として、小笠原選手が投げる際に務めたコール(味方への指示)の状況判断も光りました。強豪チームのサードと比べてもまったく遜色のない内容だったのではないでしょうか? 本来サードを務めてきた船山選手が出産後復帰した際に、どんなチーム構成にするのか非常に注目です。

 

② チーム小笠原から大人のチームへ

 

今大会の日本チームを見ていて一番印象に残ったのは、サードの吉村選手が小笠原選手に作戦を進言するシーンでした。今までのチームは、一言で言えば、「チーム小笠原」。チームの作戦だけではありません。若い選手達に、より世界を意識させ、自他ともに厳しさを求める事。その一方で、五輪時から敗戦時の取材を自らが積極的に引き受けたり、若い選手達の精神的な支えとなる事。そして、スキップとしてチームを勝利に導くラストショットを決める事。彼女は、一選手としてではなく、多くの役割を背負ってきました。ここまで、チームの力を引き上げてきた一番の要因は、高い意識を持った彼女のチームマネジメント力。

 

「大事なとろでポロポロとミスをする私のダメなところが出てしまった。みんなに迷惑をかけて申し訳ない」

終戦後のコメントにもあるように、今大会、選手としての彼女は決していい出来ではありませんでした。しかし、それでもチームが6勝5敗と勝ち越して終われたというのは、スキップの出来に依存しないチーム力の向上を示しています。そして、吉村選手が作戦を進言する機会が増えた事は、彼女のチーム内における地位が向上した事でもあります。

もちろん吉村選手だけでなく、「若い選手が予想以上にのびのびとプレーしてくれた」と小笠原選手がコメントしたように、若い選手達がいい意味で小笠原選手に対して遠慮がなくなり、自主性と責任感が芽生えてきたように思います。世界選手権という大舞台を経験し、各々の選手が何かを得て、新たな課題を持ち帰ったことでしょう。今大会の一番の収穫。それは、作戦、メンタル両面において小笠原選手に依存してきたチームが、より大人のチームとして成長する契機となった事ではないでしょうか? それを一番嬉しく感じているのは、他ならぬ小笠原選手かもしれません。

 

③今後に向けて〜世界トップとの差〜

 

終戦後、吉村選手はこんなコメントを残しています。

「負けた試合は勝てない試合じゃなかった」

言葉の通り、日本が確かな実力差を感じた敗戦は、カナダ戦ぐらいでした。その一方で、紙一重の差で勝った試合が多かったのも事実です。世界選手権に出場するチームは皆、戦えるだけの技術を持っています。勝敗を分けるのは、その精度、安定度、多彩さ。今後、もっと確実に勝利し、さらに敗戦を勝利に変えるための課題。特に上位のチームと差を感じた3点をあげてみます。

 

・フロント陣(リード、セカンド)の精度

強豪チームの戦いを見て一番思ったのが、フロント陣の精度の高さ。日本チームのフロント陣もまずまずでしたが、ショットの安定感、石1つ2つの精度、スイープ時のウエイトジャッジ(石がどこで止まるかという長さの指示)には、差を感じました。実際、フロント陣のレベルアップは日本全体の課題でもあります。例えば、北海道銀行が優勝した2月の日本選手権。スキップのショット能力で言えば、中部電力の藤澤選手、LS北見の本橋選手などは、小笠原選手にひけをとらない実力者。しかし、彼女らのチームはフロント陣のセットアップで後手をふみ、彼女らが常に小笠原選手より厳しいショットを選択しなければいけない状況に追い込まれていました。日本女子カーリングのレベルも上がり、スキップの力量でどうにかなってしまう時代が終わりつつあります。そして、世界のトップは更に強力なフロント陣を備えています。いかにスキップに有利な状況を持ってこれるか? フロント陣のレベルアップは、世界トップの仲間入りに欠かせない要素となるでしょう。

 

・スキップの安定感

スキップの力量で勝敗が決まるケースが少なくなった現在のカーリング界。とはいえ、最後を締めるのはやはりスキップ。大逆転のスーパーショットは求められなくても、有利な状況を決めきるショット、相手にプレッシャーを与える最低限のショットは求められます。今大会は、小笠原選手本人のコメントにもあるように、チャンスを逃す、又は相手にチャンスを与えるミスショットが多く見受けられました。小笠原選手自身もレベルアップが必要ですし、元々スキップの選手だった吉村選手の配置変更も視野に入る可能性もあります。そして、北海道銀行を追いかける他チームのスキップにも更なる奮起を期待したいところです。

 

・オフェンシブな戦術

カーリングの場合、そのエンドをオフェンシブに展開する時は、石を得点対象となるハウス内にドロー(置く)してためていきます。逆にディフェンシブに展開する時は、石をテイク(はじき出す)してハウス内をよりクリーンな状態にしていきます。日本チームは、テイクショットを得意としているので、相手に大量点を取らせない展開力はあります。自分達が得点をリードしている場合は、その力が生きます。しかし、ドローして石をためていくオフェンス力には課題を残しました。また、強豪チームは、相手がミスした隙を逃さず、セカンドからでも石をドローして攻めてきます。対して日本は、セカンドの小野寺選手があまりドローを得意としていない選手なので、サードの吉村選手まで仕掛けるのを待ち、それによって攻めが一投分遅れるケースもありました。相手のミスを逃さず、正確に、そして相手よりいち早く石をハウス内にためるオフェンス力。その重要性を痛感した大会でもありました。

 

 

 

さて、世界選手権も終わりオフシーズンに入りましたが、五輪を目指す戦いは意外に早くやってきます。というのも、現行の五輪出場権は、五輪直近2年における開催国を含む世界選手権の成績上位8カ国と、五輪最終予選の上位2カ国の計10カ国(※五輪最終予選は、直近2年の世界選手権に出場し、かつ五輪出場権を獲得していない事が条件)です。つまり、来年の世界選手権から平昌五輪出場権をかけた戦いが本格的に始まるのです。

 

今大会は開催国として世界選手権出場権が与えられていた日本。しかし、本来は、パシフィックアジア選手権で上位2カ国に入らなければ出場権がありません。今回日本代表として出場した北海道銀行は、同大会では中国、韓国に次ぐ3位でした。開催国でなければ、出場していたのは、中国と韓国だったのです。パシフィックアジア選手権は、現在中国が2006年より9連覇中。日本と韓国が2位を争う構図となっています。日本は、今回の世界選手権でも中国に負けました。五輪自国開催となる韓国も強化を進めているでしょう。五輪のメダルも出場も、まずはこのアジアの壁を突破する事が当面のミッションです。

 

そのパシフィックアジア選手権は今年の11月に開催されます。そして、その日本代表決定戦は9月。北海道銀行と打倒北海道銀行を目指す各チームは、果たしてどんなオフシーズンを過ごすのでしょうか? そしてどんな成長した姿を見せてくれるのか? 9月の日本代表決定戦が今から楽しみになってきました。

桜の花が散り舞い、寒の戻りと春の陽光が交差する今日この頃。その中で、彼女達の戦いはすでに始まっているのかもしれません。