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中部電力の快勝劇から見える勝利を呼び込むリードの存在感 〜カーリング日本選手権前半戦〜

平昌五輪の出場権をかけるカーリング日本選手権が月曜日から始まっている。驚いたのは、昨年まで決勝のみの放送だったテレビ中継が予選初日からあること。予選最終日の金曜日を除き、毎日2試合ずつの放送がNHKBSで組まれている。五輪代表権のかかる五輪前年の大会であることや、首都圏から近い軽井沢での開催ということを加味したとしても今までにないスケジュールだ。

 

注目の五輪代表権については、昨年優勝の男子SC軽井沢クラブと女子LS北見は、連覇を果たした時点で五輪代表。それ以外のチームは、優勝することによって9月の日本代表決定戦に持ち込むことができる。

(日本の五輪出場権の状況や日本代表権の選考方法についての詳細は、以前に書いた『軽井沢国際カーリング選手権開幕 〜Road to 平昌の前哨戦〜』を参照いただきたい)

 

大会初日、いきなりの興奮がやってきた。

 

女子の北海道銀行中部電力の一戦。3−1で中部電力がリードして迎えた第7エンド。中部電力のスキップ松村千秋のラストショットに歓声が上がる。ハウスには中部電力のストーンが3つ、北海道銀行のストーンが1つ。松村千秋がデリバリーしたストーンは、前にある2つのガードストーンの間を見事にすり抜けて、北海道銀行のストーンをはじき出す!! 4点を獲得するビッグエンドだ。これが決定打となり、8エンドで北海道銀行がコンシード。7−2で中部電力が、小笠原歩船山弓枝といった経験豊かな選手が揃い優勝候補の1つであった北海道銀行を破った。

※ 「デリバリー」→選手がストーンを投げる動作のこと

※ 「コンシード」→負けを認めて、試合を終了すること

 

ただ、中部電力北海道銀行を破ったこと自体には、僕は驚いていない。

その試合内容は、勝つべくして勝ったというような内容だったからだ。

 

もちろん、ビッグショットを決めた松村選手も素晴らしいのだけど、僕は影のMVPにリード石郷岡葉純選手を挙げたい。彼女が丁寧にデリバリーし続けた2投は、常に北海道銀行のリード近江谷杏菜選手の2投を上回り、中部電力優勢の試合展開を作り続けた。これにセカンド北澤育恵選手が続き優勢を強固なものにすることによって、サード清水絵美選手とスキップ松村選手に精神的優位を与え、リスクの少ないショット選択を可能にした。対する北海道銀行はセカンド以降、状況を挽回するようなショットが中々決まらず、スキップ小笠原選手のドローショットの成功率は低くなって万事休すだった。これは北海道銀行のショット成功率がただ低いだけでなく、北海道銀行に難易度の高いショットの選択が多かったことも影響している。ただそれは、選択したのではなく、常にストーン配置で先手を取り続けた中部電力に“選択させられた”のである。

 

同じ日に行われた男子のSC軽井沢クラブ対チーム荻原の試合でもやはり象徴的なシーンがあった。SC軽井沢クラブのスキップ両角友佑選手が、2投ともガードストーンを置いたシーンだ。SC軽井沢クラブはリード両角公佑に多少ミスがあったものの、チーム萩原もリードで優位に立てない。続くセカンド山口剛史選手の2投で優勢な状況を作ると、サード清水徹郎選手の安定したショットでより優勢を強めた。ハウス内のストーンは、もうSC軽井沢クラブにとって充分な状況になっている。もう、スキップの両角友佑選手にスーパーなショットは要らない。ハウス内を壊されないようにガードストーンを作って邪魔をすればいい。結果、チーム萩原のスキップ萩原諒選手にはガードストーンを縫うようなショットか、ガードストーンにヒットしてハウス内に飛ばすような難易度の高いショットしか選択肢が残されていなかったのである。

 

リードとセカンドがそれぞれ2投ずつデリバリーする序盤の4投を、フロントエンドと呼ぶ。ここで互角の展開であれば、もちろんサードやスキップの勝負になる。しかし、フロントエンドで差がついた展開になるとサードやスキップの力量でどうにかするのは難しくなる。強いチーム同士になればなおさらだ。実力あるサードやスキップがいるチームは強い。そして、精度の高いフロント陣も備えているチームはもっと強い。

 

カーリングのショットは、大きく分けてストーンを置きたい場所に置くドローショットと、相手のストーンをはじき出すテイクショットに分けられる。テイクショットに比べ、ドローショットはコースだけではなく距離感が要求される。ストーンの配置が仕事になるリードのデリバリーは、ほぼドローショットだ。しかも、今シーズンからはスイープに関する規則が変わり、スイープで微調整できる範囲が少なくなったため、よりデリバリーの精度が要求されるようになっている。どこのチームもドローショットに苦しんでいるからこそ、精度の高いリードの2投は存在感を増す。もちろん、中部電力SC軽井沢クラブには、会場の何気ない場所をデリバリーの目印にできるような地元の利はあるかもしれないが、アイスメーカーと呼ばれるアイスコンディションを作る人のさじ加減で、氷上の状況は変わる。地元の利以上に、リードやセカンドの安定感が相手よりも先にアイスコンディションを読み取る要因になったといえるだろう。

 

実は1週間程前の週末、昨年の日本選手権4位のチーム軽井沢と中部電力の中部選手権女子決勝を見るために、今大会の会場となる軽井沢アイスパークに足を運んだ。日本選手権の出場枠は、北海道ブロック3、東北ブロック1、関東ブロック1、中部ブロック1、西日本ブロック1。前回優勝のLS北見と準優勝の富士急は予選免除になっている。3位の北海道銀行がいるとはいえ、北海道ブロックは3枠ある。おそらく、地方ブロックで一番厳しい日本選手権の代表争い。そこを勝ち抜いてきたのが中部電力だった。

 

その中部電力は、今日の予選第5試合目で、昨年準優勝の富士急をエキストラエンド(延長戦)の末に7−6で破り、初戦から無傷の5連勝となった。北海道銀行戦でキラリと存在感を放った、中部電力のリード石郷岡選手とセカンド北澤選手を含めたフロント陣は、充分に他チームの脅威になりうるはずだ。昨シーズンのLS北見が、国内のライバル達に対して持っていたアドバンテージの1つが、リード吉田夕梨花選手とセカンド鈴木夕湖選手のフロント陣の安定感だったように。

 

昨シーズン、抜群の安定感で世界選手権銀メダルを獲得したLS北見。そのLS北見も、今シーズンは今のところ昨シーズン程の安定感を見せられないでいる。そこで大会前の戦前の予想は、昨シーズンの覇者LS北見北海道銀行が2強、それを追う富士急の構図だったが、中部電力は完全にこの構図に割って入ってきたといっていい。おそらく予選を勝ち上がるのはこの4チームになるだろう。ここまでの予選で4チームの直接対決は、中部電力北海道銀行、富士急と戦った2試合のみ。予選4連勝中の王者LS北見は、上記の3チームとどんな試合を見せるのか? 北海道銀行はどこまで立て直してくるのか? 中部電力に延長戦で敗れた富士急は? 決勝ラウンドを前にどんな力関係になるのか楽しみになってきた。

 

男子は、SC軽井沢クラブが無傷の6連勝。SC軽井沢クラブは日本選手権4連覇中。昨シーズンの世界選手権では男子史上最高の4位。今シーズンもアジアパシフィック選手権で優勝し世界選手権の出場権を手にした。彼らの頑張りが、男子カーリング界に長野五輪以来となる20年ぶりの出場権をもたらすことはほぼ確実となっている。現状では、SC軽井沢クラブの実力が一歩も二歩も抜きん出ているのは否めない。他のチームはお互い星の潰し合いで無敗のチームがいなくなったが、この中から決勝までに調子を上げてくるチームが欲しいところ。昨年準優勝のチーム東京は1勝5敗と出遅れているため、札幌とチーム北見の2チームに期待したい。フロント陣が粘り強い戦いで食い下がれば、SC軽井沢クラブといえど容易に勝つのは難しくなる。男子のパワーを兼ね備えたエキサイティングな好ゲームをテレビの前の視聴者に届け、男子も女子に負けず注目される第一歩にして欲しいところだ。