情熱のカムアラウンド

sports blog 情熱のカムアラウンド

心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

「小笠原さんに勝ちたかった」闘将西室淳子のスイープ 〜日本カーリング選手権7日目②〜

※ 前回記事『プレーオフ、そして激闘の準決勝へ 〜日本カーリング選手権7日目①〜』の続きです。

 

第8エンド。両チームのサードが、ともにガードストーンをギリギリで通過するショットの応酬を見せる。富士急のサード栁澤選手も、北海道銀行のサード吉村選手にまったく負けていない。そして、我慢比べを先に制したのは富士急。北海道銀行のスキップ小笠原選手のラストショットが短くなり、富士急がこの試合初の1点スチール。ついに、4−4の同点に追いつく。

 

第9エンド。1点を取ってふたたびリードした小笠原選手が、持っていたブラシで氷上を叩き悔しがる。狙っていたのは、相手の石を叩き、なおかつ自分の石もハウス内に残さないショット。ブランクエンドにして、同点のまま最終10エンドの後攻をもちたかった。しかし、自分の石がハウス内に留まってしまったのだ。だとしても、仮に第10エンドで富士急を1点に抑えて同点なら、エキストラエンドでは再び後攻を持てる。そう考えると、小笠原選手の悔しがりは想像以上だった。焦りなのか? 北海道銀行は富士急に追い込まれていたのかもしれない。

 

そして、第10エンド。1点スチール、もしくは1点取らせてエキストラエンドで後攻を持ちたい北海道銀行。2点を取って逆転、最低でも1点を取って同点にしたい富士急。両チームのショットに乱れが出て、富士急は2点パターンを作れないまま、西室選手のラストショットへ。しかし、ここでも西室選手が取らされる1点を確保するヒット&ステイを決めて同点。勝負は、北海道銀行後攻でエキストラエンドに。

 

エキストラエンド。小笠原選手が最後に投げる中央の進路を、塞ぎたい富士急と確保しようとする北海道銀行の攻防。北海道銀行サード吉村選手が、富士急のセンターガードを打ち出すが、自分の石がその場にステイしてしまう。すかさず、富士急サード栁澤選手が、その石に隠れるカムアラウンドをハウス中央に決め、ハウス中央を巡る攻防に切り替わる。

 

お互いのラスト1投前。ハウス中央付近にあるのは、どちらがナンバー1なのか見分けがつかないお互いの石。西室選手が、北海道銀行の石を打って自分の石を残すヒット&ステイを決め、ナンバー1、2ともに富士急に。ダブルテイクアウトを狙った小笠原選手のラストショットは、1つしか打ち出せない。この試合2回目のスチールが決まり、大熱戦に終止符が打たれた。

 

富士急   01010011011 6

北海道銀行 10200100100 5

 

 

 

この、準決勝で目に焼き付いて離れないシーンがある。

 

それは、第9エンド。サード栁澤選手が投じたガードストーンを懸命にスイープで伸ばす西室選手の姿。

 

すごいスイープだった。思わず、「西室すごいスイープ」とだけメモに書きなぐっていた。後でメモを見返すと、大会7日目でスイープに触れたのはこの1行だけだった。体をこれでもかというくらい、くの字に曲げる。ブラシに全体重をのせ、一心不乱に氷上をこすっていた身体は、広げた両足がつま先立ちのように浮きかかっていた。彼女が身体にまとった気迫。それは、遠い観客席まで充分伝わってきた。

 

西室選手の試合後のコメント。

「同年代の小笠原さんにいつも勝てず、最近ではLS北見北海道銀行ばかりが注目され、悲しい思いをしていたので、なんとかそこに割って入りたいと思っていた」

 

実は、初日の公式練習中、観客席で富士急の選手を見かけた。周囲と世間話をしている姿を見て、失礼ながら感じてしまった。今大会への本気度や意識の高さが、北海道銀行LS北見とは違うのではないかと。ただ、しばらくして目を向けると、北海道銀行LS北見の練習をじっと見ている西室選手の姿があった。

 

西室淳子(旧姓 園部)35歳。小笠原歩(旧姓 小野寺)37歳。長く日本の第一線で戦ってきた両者だが、ここまでの道のりはかなり違う。ジュニア時代にさかのぼれば、小笠原選手が所属していたシムソンズは優勝で、西室選手が所属していたPic Ticは2位。その後、小笠原選手はソルトレイクシティ五輪、トリノ五輪に出場し活動休止。活動再開後は、ソチ五輪出場を果たしている。光が当たる場所にいたのは、いつも小笠原選手だった。

 

そして、西室淳子が以前所属していたチーム長野は、いつも日本女子カーリング界で輝かしい歴史を残しているチーム青森の影にいた。トリノ五輪の日本代表決定戦。初の日本開催となった2007年世界カーリング選手権代表決定戦。バンクーバー五輪の日本代表決定戦。小笠原選手がいる時も、小笠原選手が活動休止中の時も、チーム青森と戦うチーム長野には、彼女がいた。チーム長野解散後、富士急に加入して以降は、日本の中心が中部電力北海道銀行LS北見と変わっていく中、第3の勢力として。

 

しかし、この日の主役は彼女だった。後攻時には、スチールを許さず1点を取りきったラストショット。先攻時には、小笠原選手にプレッシャーをかけるショットで2回のスチールを成功させた。肝心なところで、西室淳子は小笠原歩を上回っていた。そして、第9エンドのスイープは、日本女子カーリング界の栄光の影でずっと悔しい思いを持ちながら戦ってきた彼女が見せた、勝利への執念だった。

 

 

 

「チームの若い選手達に一歩先の世界を見せられてとてもうれしい」と話し、臨んだ翌日の決勝。残念ながら、富士急は昨日の富士急ではなかった。その中で、自分のショットを懸命にスイープしてくれたチームメイトには、「ありがとう」とねぎらいの言葉をかけた。第7エンドでは、「次は決める」とチームメイトに言い、言葉通りダブルテイクアウトを決める意地も見せた。

 

表彰式の後、小笠原選手から「よく頑張ったね」と声をかけられた時、西室選手は何度も目頭を押さえた。

「ここまで来てよかった」と。

 

決勝終了後。彼女は、「今の粘りに加えて安定できる戦いをできるようにまた鍛えたい」と今後への抱負を口にした。

闘将西室淳子のカーリング人生はまだ続く。

 

 

 

※この度は、日本カーリング選手権観戦記の更新が遅れてしまい、お楽しみいただいて下さった皆様には申し訳ございませんでした。次回は、男女決勝を振り返りながら、優勝した女子のLS北見や男子のカーリングについてお届けする予定です。