情熱のカムアラウンド

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LS北見と北海道銀行 心が紡ぎだす氷上のドラマは新2強時代へ

9月20日の代表決定戦。ロコソラーレ北見(以下LS北見と表記)の声がよく出ている。北海道銀行フォルティウス(以下北海道銀行と表記)を終始押し続けていた。プレーも気迫も。

 

先月16 日より北海道常呂町で開催された、パシフィックアジアカーリング選手権大会日本代表決定戦大会。LS北見は予選から全勝し、20日の代表決定戦にコマを進めた。相手は、ソチ五輪5位、今年の世界選手権6位の王者北海道銀行。直接対決で3戦先勝した方が代表権を獲得するこの大会、予選で北海道銀行に2勝しているLS北見は、この試合に勝てば、チーム結成以来初の日本代表だ。

 

そして、LS北見が8−6とリードして迎えた最終エンドラストショット。

 

そのラストショットを投げるのは、LS北見の新スキップ藤澤五月

 

 

 

 

そのニュースは今年の5月に飛び込んできた。

 

“元中部電力カーリング部のスキップ藤澤五月が、LS北見に加入”

 

彼女は中部電力所属時代に日本選手権を4連覇(2011〜2014)する原動力となった、日本女子界で1、2位を争うスキップ。ソチ五輪までの数年、彼女が率いる中部電力は、間違いなく日本最強のチームだった。

 

しかし、ソチ五輪世界最終予選の出場をかけた2年前の日本代表決定戦。北海道銀行に敗れた瞬間、目標としていたソチ五輪への切符は手のひらからするりと落ちた。共に戦ってきたサードの市川美余は、2014年の日本選手権優勝後、引退を決めた。

 

そして今年2月の日本選手権、中部電力は6位。淡々とプレーする彼女の背中からは、生来の負けず嫌いからくる勝利への気迫が消えて見えた。

 

彼女が選んだ答えは、中部電力を退社し、地元北見市に戻って活動を再開することだった。

 

 

今大会で抜群の安定感を見せたLS北見のサード吉田知那美

 

彼女は、ソチ五輪時は北海道銀行のメンバー。

 

ソチ五輪では、体調を崩した小野寺佳歩の代役として一時セカンドも務める。しかし、主なポジションは、試合に出る4人の控えとなるフィフス。

 

ソチ五輪後、北海道銀行には近江谷杏菜と吉村紗也香が新加入。彼女はLS北見に加入し、サードとして相対する事となる。

 

世界選手権の代表権を兼ねた今年2月の日本選手権。新戦力を迎えた北海道銀行に予選で勝利。しかし、決勝トーナメントでは力負けの2連敗だった。

 

 

そして、2010年からLS北見を率い続けた本橋麻里

 

かつてはトリノバンクーバー五輪に出場したLS北見の主将。しかし、チーム結成後は中部電力北海道銀行の後塵を拝し続けた。

 

ソチ五輪世界最終予選の出場をかけた日本代表決定戦。試合後、彼女は号泣しながら「まだまだ未熟な部分が多いと改めて気付けた」と結成からの3年を振り返った。

 

ソチ五輪を節目と考えていた。お母さんになる夢もあり、この先の去就は明言できなかった。競技を離れる選択肢もあった。

 

考えた末に出した答えは、平昌五輪への挑戦だった。

 

 

そして、20日の代表決定戦。

 

人目を気にする事なく、試合中に何度もストレッチを繰り返す藤澤五月の姿があった。それは、目の前に試合に没頭し、勝利をどん欲に求める本来の姿。鬼気迫るような叫び声で懸命にコールし続けていたのは吉田知那美。そこに透けて見えたのは、彼女のオリンピアとしての意地と矜持。2月の日本選手権で後手を踏んだ、吉田夕梨花鈴木夕湖のフロント陣(リードとセカンド)のセットアップは、北海道銀行のそれを上回っていた。主将本橋麻里は、出産を控え一人の母となる日を待ちながら、ベンチから仲間の戦いを見つめていた。

 

そして、チームの想いをのせた藤澤五月のラストショット

 

そのドローショット(石を置きにいくショット)は、狂うことなくゆっくりとハウス中央に腰を下ろしていた。

 

 

しかし、喜びに浸る時間はわずか。チーム結成以来初の日本代表決定から4日後。LS北見のオフィシャルサイトに掲載された選手のコメントで、藤澤五月は周りの人への感謝を述べた後、こう続けている。

 

“ただ、私たちのゴールはここではありません。

これからまた、世界選手権をかけたアジアパシフィック予選、日本選手権、世界選手権、そしてオリンピックという厳しい試練を乗り越えていかなければならない。”

 

現行のカーリング五輪出場権は、五輪直近2年の世界選手権成績上位8カ国と、五輪最終予選の上位2カ国の計10カ国(※五輪最終予選は、直近2年の世界選手権に出場している事が条件)。パンパシフィックアジア選手権は、世界選手権出場国を決める戦い。枠は上位2カ国のみ。現在中国が2006年より9連覇中。五輪自国開催となる韓国も強化を進めている。ソチ五輪で5位になった北海道銀行でさえ、前回大会は3位だった(ただし開催国枠により世界選手権出場)。

 

決して楽な戦いではない。だが、この大会は2018年平昌五輪出場権を争うスタートでもある。

 

「チーム全員でお互いを尊重しあい(吉田知那美)」、「今より個人力チーム力ともに高め(鈴木夕湖)」、「チーム全員で成長していけるように(吉田夕梨花)”」

 

「やっとスタートラインに立てた今、もう一度力を合わせて、次のステップに進みたい(本橋麻里)」

 

パンパシフィックアジア選手権は11月7日から始まる。次のステップに進むLS北見の戦いが続く。

 

 

一方、LS北見に3連敗し、パンパシフィックアジア選手権の出場権を失った北海道銀行ソチ五輪は5位。世界選手権では世界ランク上位の国を倒す健闘を見せ6位。大きな経験と自信を手にした彼女達は、その半年後、突如として立て直しのシーズンを迎えることになった。

 

しかし、彼女達の目はすでに次に向いている。

 

敗戦の翌日、北海道銀行のオフィシャルサイトにアップされたスキップ小笠原歩のコメント。

 

“原因はしっかり把握しています。すぐに次の目標に向け、チームでスタートを切りました。

LS北見のみなさんの戦いぶりは素晴らしく、私たちも学ぶ事がたくさんありました。

すべては私たちが目指す夢につながっています。この負けを意味あるものととらえ、カナダ合宿へ行ってきます。”

 

 

そう、これは新2強時代の幕開け。これから長い長いレースが待っている。それは時に痛々しく感じるほどの。

カーリングに魅せられ情熱をかけるカーラー達の心が紡ぎだす氷上のドラマ。それを楽しませてもらっている僕は、当の本人達には「いい気なもんだ」と言われてしまうだろうけど。

 

おめでとうLS北見。ドンマイ北海道銀行

 

新2強時代の幕開けに乾杯。そして、カーラー達の心が紡ぎだす氷上のドラマに感謝。