情熱のカムアラウンド

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心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

爪を研ぐ者

私事だが、10日ほど前に語学試験があった。学生時代に培った一夜漬け根性よろしく勉強に追われていたのだが、おかげで録画していたスポーツ番組が随分と溜まった。不合格の失意に浸る間もなく、録り溜めていた番組を視聴していく。なでしこのアメリカ遠征、カーリングのドキュメント番組、キリンカップJリーグの試合etc。並行して、NBAファイナルあり、セパ交流戦あり、EURO2016は開幕となると、雑種のスポーツ好きを少し呪ったりもする。

 

正直に言うと、結果のわかっている試合を見るのは余り好きではない。途中を早送りで飛ばしながら見てしまうものもある。その中でも、Jリーグサンフレッチェ広島アビスパ福岡の試合は、最後まで楽しく見ることができた。

 

個人的に、アグレッシブな守備を掲げる昇格組アビスパ福岡の戦いに注目しているから、というのが1つの理由。そして、4−0というサンフレッチェ広島ワンサイドゲームを楽しめる魔法をかけてくれたのは、この試合の解説を務めていた戸田和幸さん。

 

戸田さんの現役時代といって真っ先に思い出すのは、2002年の日韓W杯。赤いモヒカン姿という出で立ち以上に、厳しいチェックとタックルで相手の自由を奪う気迫あふれる激しいプレーが印象に残っている。

 

解説はというと、そのイメージとは対照的に、とても丁寧かつ理論的。両チームの戦術面を俯瞰した理路整然としたコメント。また、局面局面のワンプレーに対する元プレイヤーとしての視点も面白い。今そこで何が起きていたかに重きをおいて、自分の意見を押し付けない謙虚な解説は、とても聞きやすかった。

 

しかし、アビスパ福岡が後半途中からダニルソンを投入したシーンでは、少し違った。

 

ダニルソンは、がっしりとした大きな身体をしたボランチで、ボール奪取への迫力がある。そこで、アナウンサーが、

「やはり、戸田さんでもダニルソンのような選手は怖さを感じますか? 」

と戸田さんに質問すると、戸田さんは間髪入れずに答えた。

 

「怖くないです」

「怖いと思ったら負けです。怖いでしょうけど、怖いと思わないように頑張ります」

 

それは、現役時代の戸田さんの闘志あふれるプレーぶりを垣間見せるコメントだった。

 

そして、この人は爪を研いでいる。そう思った。

 

戸田さんは、現在、解説業のかたわら、FC町田ゼルビアのジュニアユースの非常勤コーチを務め、S級ライセンス取得を目指している。その理論的な解説。試合中に井原・森保両監督を尊敬し学んでいるようなコメント。そして、ダニルソンを「怖くない」と言った気概。現役を退いても、その情熱は衰える事なく、学び得ようとする野心に溢れている。

 

Jリーグを見渡すと、この日の試合で指揮を執っていた井原・森保両監督をはじめとして若い日本人監督が増えた。そして、少し前に東南アジアのサッカー事情を調べた事があるのだが、現在多くの日本人指導者、サッカー関係者が海を渡って活躍している。

 

Jリーグの開幕。ドーハの悲劇マイアミの奇跡ジョホールバルの歓喜。日韓W杯の熱狂。そんな日本サッカーの急激なレベルアップを体感してきた多くの選手達が、指導者として、あるいは戸田さんのように指導者になるべく爪を研いでいるのだ。

 

戸田さんに気付かされた気がする。そんな彼らの存在こそ、日本サッカーがアジアに誇るべき財産なのだと。そう考えると、頼もしくなってくる。

 

彼らが、どのように日本の、アジアのサッカーレベルを引き上げてくれるのだろうか?

そして、戸田さんはどんな指導者となって私たちの前に現れてくれるのだろうか?

 

爪を研ぐ者たちがつくる未来は、どんな姿をしているのだろうか? と。

 

楽しい妄想は尽きない。そして、彼らに負けないように勇気と情熱を持ち続けたいと改めて感じている。