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優勝候補のピーキング 「ピースがはまった」オランダ戦

「いつもハラハラ、ドキドキさせてすみません」

 

試合後に苦笑して語る佐々木則夫監督の表情は、予選よりも自信に満ちて見えました。そう見えたとしても仕方がないくらい、点差以上に会心の勝利でした。決勝トーナメント1回戦。なでしこジャパンはオランダを2−1で破り、ベスト8進出を決めました。男子の不甲斐ないシンガポール戦を見た後だけに、余計になでしこジャパンの、したたかでしぶとい戦いぶりが頼もしく見えてしまうのは私だけでしょうか?

 

オランダ戦最大の収穫。それは、試行錯誤していたファーストチョイスとなるベストの布陣が見えてきたことだと思います。

 

ネガティブなことを先に言っておくと、オランダに勝ったこと自体は、この先を何も保証してくれない出来事でしょう。失礼ながら、オランダは、決勝トーナメントに進出したチームの中では明らかに質が落ちるチームでした。今大会を見る限り、勝敗の行方を左右する一番のポイントは、前線からのプレッシャーをどうかいくぐれるか? だと感じています。オランダには、その前線からのプレッシャーがあまりにも欠如していたし、日本の前縁からのプレッシャーをかいくぐる術においても乏しすぎました。

 

しかし、それを差し引いても、はめては外し、はめては外しを繰り返していたピースが、この試合でしっくりはまってきたという手応えは大きかったと考えます。

 

全勝しながら全試合1点差だった予選リーグ。その苦しい戦いの裏には、勝ち点を積み重ねるのと平行して、試合の中でベストの組み合わせを模索していたという側面があります。連携面の不安はある程度承知の上で、登録メンバー全員を使い切り、コンディションや連携を確認しながらの戦い。そのチャレンジが、このオランダ戦でようやく形として現れてきた気がします。

 

その中でも、特に手応えを感じた部分は二つ。

 

一つ目は、ダブルボランチを組んだ坂口選手と宇津木選手のコンビネーションが良かった事と、左サイドバックの鮫島選手の高パフォーマンス。

 

予選リーグを見ていて、澤選手が交代した後のチームの不安定感は一つの懸念材料でした。厳しい試合日程の中で、澤選手を90分使い続ける事が必須条件になってしまうのか? また、宇津木選手を左サイドバックで使った時に、ボランチのカードが1枚減るという事と、スピードのある相手とのマッチアップは大丈夫なのか? という問題もありました。

 

しかしオランダ戦では、宇津木選手が坂口選手と組んだボランチでいいパフォーマンスを見せてくれました。特に、トラップと同時に前を向けるボールの受け方が素晴らしく、今後早いプレッシャーをかけてくる相手に対する武器になるかもしれません。そして、鮫島選手は、スピードあるオランダのメリス選手にスピード負けせず、完全に抑えきる高パフォーマンス。

 

これにより、左サイドバックは相手の特徴によって鮫島選手と宇津木選手を使い分け、ボランチは澤選手か宇津木選手を、坂口選手と組ませることで決まりそうです。また、試合を落ち着かせたり、動かすことのできる澤選手を、切り札として取っておくという選択肢ができたのも大きい。宇津木選手の高いユーティリティ性がチームに噛み合ってきたことで、澤選手の起用方法を含め、幅がでてきたなという感じです。

 

そしてもう一つは、2トップを組んだ大野選手と大儀見選手の関係性が良く、右サイドハーフの川澄選手も良いパフォーマンスを見せてくれたこと。

 

安藤選手が負傷離脱後、最も懸案事項だったと言ってもいい2トップの組み合わせ。予選リーグでは、大儀見選手と菅原選手の組み合わせでしたが、2人の関係性も周囲との関係性も、今ひとつと言わざるを得ませんでした。そして、右サイドハーフのファーストチョイスだった大野選手も、運動量での貢献はあったものの、攻撃面ではあまり目立たず窮屈そうなプレーに見えました。

 

しかしオランダ戦では、大野選手が攻守ともに大儀見選手と良い関係性を見せてくれました。また、大儀見選手との距離感を気にしつつも、後ろからのボールを引き出す動きが攻撃を活性化させていました。そして、右サイドハーフで先発した川澄選手は、攻守ともに右サイドバックの有吉選手をサポートし、確実性を重視した中央へのボール配給で献身的なチャンスメイクを見せてくれました。あとは敵陣深くに鋭く切れ込む川澄選手らしさが戻れば、更に右サイドは威力を増しそうです。

 

大儀見選手と2トップを組むのは大野選手、右サイドハーフは川澄選手がファーストチョイスで決まりそうです。岩渕選手の回復具合も未知数ですし、同じくドリブルで仕掛けられる大野選手が前線にいるのは、PKが多い今大会の流れにも合っている気がします。また、菅原選手、岩渕選手とタイプの違うフォワードをベンチに置いておくことができるのもプラス材料かもしれません。

 

有吉選手の素晴らしい前半の先取点が、オランダ戦を有意義な最終テストにしてくれました。あとは、ローテーションで使ってきたゴールキーパーの起用方法ぐらいでしょうか。選手への苦言あり、賞賛あり、ユーモアありの佐々木監督の手綱さばきも冴えてきました。あえて言えば、交代選手をあと一人使えたのなら、使っておくべきだったかなとは思いましたが。

 

W杯で優勝候補と言われる国は、決勝トーナメント以降にピークを持ってきます。

 

思い返せば、男子の日本代表が初出場したフランスW杯。予選リーグで同居した優勝候補アルゼンチンは、さしたるインパクトを見せずに1−0で日本に勝利しました。3位になったクロアチアもまた、酷暑に苦しめられながらの1−0でした。僕たちのピークは、決勝トーナメント以降だよと言わんばかりに。

 

これから先、オランダのようなチームはいません。攻撃も守備も受けるプレッシャーは、一段階も二段階も上がるでしょう。ただ、なでしこジャパンは、確実に決勝トーナメント以降にピークを持ってくることには成功しました。準備はようやく整いつつあります。オランダ戦後、佐々木監督はチームの状態について次のように話しました。

 

「ひとつひとつ上がってきているとは思います」

 

今後の戦いぶりに、いやが上にも期待感が高まってきました。