情熱のカムアラウンド

sports blog 情熱のカムアラウンド

心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

ラグビー大学選手権決勝~関東学院が見せたラグビーの原点~

 一週間前に行われたラグビー大学選手権決勝は、戦前の予想を覆し、関東学院が33-26で早稲田を破り、3年ぶりの優勝を飾りました。

「スターはいらない。雑草に花が咲きましたよ」

そう話す関東学院の春口監督の誇らしい言葉は、多くのラグビーファンの印象に残ったのではないでしょうか。

 

 関東学院の勝因は、ラインアウトの攻防を制したからだと言われています。それは確かに間違いないでしょう。早稲田が誇るBK陣の決定力を活かしていたのは、セットプレー(スクラムラインアウト)の安定感でした。前半、早稲田のマイボールラインアウトの獲得数は11回中わずか3回。関東学院のトライも早稲田ボールのラインアウトを奪ってからの展開でした。攻撃の起点をつぶされたことで、早稲田は浮き足立ちました。早稲田は後半風上でしたが、ラインアウトによる攻撃を選択しませんでした。関東学院のゲームプランは見事にはまったのです。

 

 しかし、果たして関東学院の勝因はそれだけでしょうか?

 

 実は、今年の早稲田が、エンジンのかかりの遅さからなのか前半に苦戦することはよく見られた光景でした。しかし、後半の早稲田はどの大学チームよりも強かった。前半の苦戦をしっかり分析して、後半にきっちりと立て直す。その抜きんでた修正能力の高さは、今年のチームの特徴でもありました。どうして、この日の早稲田は後半もペースをつかめなかったのでしょうか?

 

「チーム全体が一つになってたんで、いい試合ができたと思ってます」

 試合後のインタビューに答える関東学院の吉田主将の言葉が、関東学院のもう一つの、そして最大の勝因を言い表しているのではないでしょうか。鮮やかな快勝劇の裏にあったもの。それは数字には表れない結束力の差です。結束力というと、何か抽象的に感じてしまうかもしれませんが、一見何気なく見えるプレーに、それは隠れていたのです。

 

 関東学院フォワードはボールを持つと、執拗に密集サイドを突きました。少しでも前に出ることで、バックス陣が早稲田のプレッシャーを受けずにプレーできるように。バックスは、逆サイドまで一気に回さずにセンターが縦を突きました。フォワード陣が、すぐにフォローできる距離にポイントを作るために。関東学院が外のウイングまで回すのは、ウイングが相手を振り切れるような状況に限りました(事実、早稲田のウイングのトライは華麗なステップをきったものだったが、関東学院のそれは一直線に走ってのものだった)。そして縦を突いたセンターの付近にいた選手は、早稲田のディフェンスに倒されそうになる選手をすかさず後から支えました。ラグビーでは倒れたらボールを離さなければなりません。フォワード陣が来るまで立ち続けることで、次のラックを有利に運ぶためでした。

 

 それに対して、早稲田のバックスは飛ばしパスを交えながら、遠いサイドまでボールを回しました。しかし、プレッシャーを受けた球出しでは、素早いパス回しに関東学院のバックスの出足が負けません。結果、早稲田のバックスは一番フォワードから遠い所で捕まり、ターンオーバーのピンチを何度と招きました。豊富な運動量を強いられたフォワードは、関東学院フォワード以上に体力を消耗させていったのです。とても対照的な光景でした。

 

 関東学院が見せたこれら一つ一つのプレーは、とても地味で得点に直結するようなビッグプレーではありません。しかし、マイボールを確保し続けるためには非常に大事なプレーでした。フォワードはバックスのために、バックスはフォワードのために。個人はチームを活かすために何をすべきか。チームは個人を活かすために何をすべきか。関東学院の見せた結束力は、ラグビーの原点である“One for all, all for one(一人は皆のために、皆は一人のために)”の精神に直結していたのではないでしょうか。

 

戦術うんぬんよりも、一番大事なのは“One for all, all for one(一人は皆のために、皆は一人のために)”の精神。そんなラグビーの原点を思い出させてくれる関東学院のナイスゲームでした。