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2014年を振り返る〜市川美余引退 美人アスリートに正当な賛辞を〜

 今年の5月、中部電力に所属していた市川美余選手が正式に引退を表明しました。

 

 中部電力カーリング女子のキャプテンを務め、「美人すぎるカーリング娘」と呼ばれて有名になった、と聞けば、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

 

 市川選手と言えばそのルックスばかりに注目がいきがちですが、中部電力カーリング女子は、2011年から日本カーリング選手権を3連覇。世界で戦う為に『マンリーカーリング』に取り組み、間違いなくソチ五輪に一番近い場所にいました。

 

 『マンリーカーリング』とは、一言で言えば男勝りのカーリング。女子でもパワーを必要とされるようになっているカーリング界。力強いテイクアウト(相手の石をはじき出すこと)のショット。力強いスイープ(ブラシで氷上を掃くこと)力。その力強いショット、スイープを自分たちのものにする為に積み重ねてきた努力はどれほどのものだったでしょうか?

 

 しかし、中部電力カーリング女子は、昨年9月の日本代表決定戦で北海道銀行に敗れ、目指していたソチ五輪出場を逃します。3年間リードし続けていたのに、最後の最後での敗戦で。

 

 敗戦濃厚で迎えた、北海道銀行のサード船山選手のショット。じっとそのショットを見つめる中部電力の選手達。そして船山選手のショットが決まり敗戦が決まります。呆然とする中部電力の選手。しかしただ一人、市川選手は北海道銀行のキャプテン小笠原歩選手の元に駆け寄って握手を交わし、溢れ出る涙を抑えながら一言。

 

「私達の分まで頑張ってきてください」

 

 毅然と敗戦の将として勝者をたたえ、切磋琢磨してきたライバルにエールを送るアスリートの姿がそこにはありました。その姿は、普段メディアで取り上げられるどの彼女よりも美しく。その一言をかけるのとほぼ同時に、市川選手と抱き合った小笠原選手にも涙が溢れていました。この後に行われる五輪世界最終予選、日本の出場権を獲得したのは、他でもない中部電力でした。本当は悔しくてしょうがないはずのライバルの一言にグッとくるものがあったのではないでしょうか。

 

 中部電力の強さは『マンリーカーリング』と共に、最後のスキップをつとめる藤澤五月選手の存在感だったと思っています。しかし、この時ばかりは思いました。本当の強みは、市川選手のキャプテンシーだったのかもしれないと。

それだけにあまりに残念な引退表明でした。

 

 美人アスリートとして話題になってしまうと、どうしてもルックスばかりが先行してしまい、アスリートの部分に目を向けることがおろそかになってしまいがちです。筋肉トレーニングに励み、いち早く回転系のエアに取り組んだ、モーグル上村愛子選手。誰よりも運動量豊富にピッチを駆け回り、試合後はいつも厳しいコメントの女子サッカー川澄奈穂美選手。周りの評価に浮つかず、競技に真摯に取り組んでいく過程の中で、求道者のような佇まいを見せていく姿。そう言った彼女達の姿を目にするたびに、いつも戒められます。美人アスリートという言葉は、彼女達を知るきっかけでありたい。そして、素晴らしい美人アスリートに正当な賛辞を贈りたいと。

 

 中部電力も退社し、「五輪を目指す時からソチまでと決めていた」「別のステージで頑張りたい」という市川選手。引退は残念ではありますが、「アスリート市川美余」の競技生活に心からお疲れさまの言葉を贈りたいと思います。そして、いつか復帰する彼女の姿をほんの少し期待しています。健闘を称え合った北海道銀行の小笠原選手は、結婚出産後に勝負の世界に戻ってきました。ゾクゾクするような勝負の緊張感を一度味わってしまったら、そう簡単に忘れる事はできないのかもしれませんから。