情熱のカムアラウンド

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心の感じるままに。カーリングをメインに様々なスポーツを追いかけて。駆け出しスポーツライターの人生奮闘ブログ。

ブームを文化にする第一歩は、「やってみたい」のハードルを下げる 〜なでしこ感動の受け皿〜

私が小学校4年生のクラス文集に書いた将来の夢は、「ラグビー選手になりたい」だった。明治大学出身の担任の先生がラグビーボールを持参して、興味を持ったクラスの子供達と昼休みの時間に遊んでくれた。ただ楽しいという感動からくる無垢な夢だったのだろうと思う。

 

今から1ヶ月前の7月上旬。なでしこジャパンがW杯で準優勝した直後、宮間選手が口にした言葉を取り上げて、あちこちのメディアで特集が組まれていた。

 

「ブームを文化に」

 

日本にサッカーの文化があるかどうかはさておき、一過性で終わるブームを持続的なものにしたいという気持ちが表れる言葉だ。宮間選手は以前より、女子サッカーがおかれている危機感をことあるごとに口にしている。この言葉が急に取り上げられること自体ブームの域を出ないのかもしれないが、無関心であるよりはずっといい。一人の選手、代表選手だけに背負わせるには余りにも大きいミッション。彼女の一言に重みがあったからこそ、彼女達をとりまく現状を取り上げる空気が生まれている。

 

関心が増えても継続されず、やがて風化されてしまえば、その活躍は単なる過去の1ページになってしまう。ソチ五輪スノーボードパラレル大回転で銀メダルを獲得した竹内智香選手が、銀メダルの喜びよりも、この銀メダルが競技への認知、そして環境作りのきっかけになる事を切望していた事を思い出す。持続性を保つには、4年という歳月はあまりに長い。

 

宮間選手の発言がきっかけとなり組まれた特集のほとんどは、仕事とサッカーを両立している選手の現状と、前回W杯をピークに減少傾向のなでしこリーグの観客動員数に焦点をあてていた。競技に専念できる環境、リーグの安定的な運営etc。マイナー競技の環境作りというのは、言うは易し、行うは難しだろう。日本に限らず、女子サッカーに限らず、マイナー競技にとって超えなければならないハードルは幾重にもあり、そして高い。ブームを文化にしようといざ考えると、何から手を付けていいのかわからない程の巨大なものに立ち向かうような感覚にすら襲われる。

 

私のような素人には、文化にする為の劇的な解決策なんてわからない。けれども、一つ言えるのは、中学校にラグビー部があったら私はラグビーを競技として続けたかもしれないという事だ。

 

少しトップの環境作りから離れてみる。日本対アメリカの決勝戦が行われる前に、テレビで目にしたデータがあった。

 

3万対167万

 

これは両国の女子サッカーの競技人口(報道によって多少誤差があったが、それについては申し訳ないが割愛させていただく)。実に55倍強の差。この数字を見ると、余計に日本の成績がいかに素晴らしいものだったかを感じる。小国が大国を降す事はよくあるけども、2大会連続で決勝まで勝ち進むのは、極めて稀な出来事。

 

個人的な感想だが、今回のW杯を見て、大会の規模も運営も、選手の技術も確実に上がった。優勝候補と言われる国のサッカーには、ファンでなくても退屈することのないエンターテインメント性があった。もし、3万という競技人口が今後増えなければ、世界のレベルアップに追いつくだけの、安定した人材の輩出は保証できないかもしれない。なでしこジャパンの活躍が、そんな時代もあったという過去の栄光になり、類い稀なる好選手が揃った世代だったと済まされてしまう可能性だってある。4年後も、その更に4年後も、3万対167万の戦いを余儀なくされれば。

 

ただ、世界の女子サッカー界の変化だって、少しずつ作られているもの。なにも日本がそれを上回るスピードで変革を焦らなくてもいい気もする。過去に比べれば、競技だけに専念できる専属契約の選手も増えた。まだ脆弱な環境なのかもしれないが、日本女子サッカーの環境は、少しずつ良くなっているのも確かだ。

 

それよりも、競技人口の差を聞いて一つの疑問が沸き上がった。今大会のなでしこジャパンを見て感動し触発された女の子達が、サッカーをやってみたいという気になった時に、容易に選択できるような受け皿はどれほど用意されているのだろうか? と。少し気になったので、一例として、今年の1月に開催された全日本高校女子サッカー選手権大会の参加校を調べてみた。地方大会から調べると総参加校は86校。平均すると1都道府県あたり2校以下になる。想像よりも少なかった。2大会連続でW杯決勝に進出している国にしては。

 

都道府県あたり2校以下という数字は、「やってみたい」という軽い気持ちで女子サッカーという競技を選択するには、余りにも厳しい数字だ。これでは、女子サッカー選手になりたいという強い気持ちがあって高校を選んだか、たまたま進学した高校に女子サッカー部があったので入部した学生達にしか受け皿は用意されていない。推測にはなるが、この状況は中学においても同様だろうし、少年サッカーのようなクラブにおいても女子専門のクラブはわずかだろう。

 

中高の女子サッカー部や女子専門のサッカークラブが増えたところで、その後のカテゴリーの受け皿や環境整備が伴っていないという問題は確かにある。なでしこリーグの観客動員数も伸び悩む中で、更なるチームの増加もスポンサーの増加も専属契約選手の増加も簡単に描く事の出来る代物ではない。トップ選手達が更なる環境を求めて、ドイツを始めとした海外に渡ることも続くだろう。

 

でも、それでも、とりあえずやってみたいという軽い気持ちで女子サッカーという競技を選択できる状況が少ないのは寂しい。感動の力はあなどれない。そこから沸き上がる憧れや興味。何らかのスポーツを始める子供達の大半は、将来のトップの環境など考えずに、「やってみたい」を形にしようとする。私が、ただ楽しいという感動から「ラグビー選手になりたい」と文集に書いたように。

 

おそらくは、女子サッカー部の学生達の大多数は、学生時代で女子サッカー選手を終えるであろう。しかし、競技に触れるという事は、その競技に関心を持つ事と無関係ではない。彼女達の多くは、女子サッカーに関心を持つ人として残っていくのではないか? 誰かは女子サッカーに携わる職業に就き、誰かはスタジアムに足を運び、誰かは女子サッカー中継を視聴し、誰かは女子会で女子サッカーの話題に花を咲かす人に。

 

今こそ、なでしこジャパンの感動が、受け皿増加のムーブメントになればと思う。学生達が自発的に女子サッカー部を作ってもいい。女子サッカー部を作ろうとする先生が現れてもいい。人数が足りなければ、近隣校との混合チームでもいい。女子専門のサッカークラブを作ろうとする指導者が現れてもいい。トップの選手達が、女子サッカー部のない学校を訪問する普及活動を促進するのもいい。競技人口の増加は、競技全体のレベルアップにつながる。そして、エンターテインメント性が高まれば、競技経験の有無に関わらず多くの人が関心を持つようになる。ラリーの少ない男子テニスや男子バレーよりも、ラリーの続く女子テニスや女子バレーを好むファンがいるように。

 

男勝りな女の子が男の子に混じって始めるのが女子サッカー。強い気持ちでサッカー選手を目指す子達だけがやるのが女子サッカー。まずは、そのハードルを下げてあげる必要がある。「やってみたい」という軽い気持ちで女子サッカーを選択できる環境作りこそ、ブームを文化にする第一歩になるのではないかと私は思うのだ。