2強時代の片隅で芽吹く新世代の息吹 〜日本カーリング選手権中盤戦より〜
「おー、決めたよー! 」
観客席からその試合一番の歓声が上がった。
「俺達だったら、絶対あれだけど、女子では中々やらないよ! 」
ユーストリームの放送席、大会関係者、そして試合終盤を見守っていたSC軽井沢クラブの選手から感嘆の言葉がもれた。
その感嘆の矛先は、チーム軽井沢のスキップ中嶋星奈の最終エンドラストショット。
大会5日目となる2月10日。4日目終了時点で6勝0敗としたLS北見と、今日の第1試合でLS北見に勝利した北海道銀行がプレーオフ進出を決め、残るイスは2つ。第3試合を前に、プレーオフ進出のチャンスが残されているチームは、
あおもりユース 4勝2敗(残り2試合)
チーム軽井沢 4勝2敗(残り2試合)
青森県協会 3勝4敗(残り1試合)
富士急 2勝4敗(残り2試合)
ヒト・コミュニケーションズ 2勝4敗(残り2試合)
プレーオフ最低ラインは、4敗まで。ヒト・コミュニケーションズは、この第3試合は、北海道銀行との対戦で相当厳しい。あおもりユースとチーム軽井沢は、明日にそれぞれ北海道銀行とLS北見との対戦を残している。青森県協会と富士急は、残りを勝ってタイブレーク(プレーオフ進出決定戦)に持ち込みたいところ。
第3試合の
青森県協会vsチーム軽井沢
あおもりユースvs富士急
は、プレーオフ進出を争う同士の大一番。
先に、決着がついたのは、あおもりユースと富士急の試合。富士急が後攻エンドで着実に複数得点を重ね、10-3で勝利。昨年3位の富士急は、ここまで調子の波が激しい試合が続いたが、この試合に限ってはナイスショットが次々と決まり会心の試合運びだった。
青森県協会とチーム軽井沢の戦いは、ハーフエンドを終えて4−4。ハーフエンド後にチーム軽井沢が連続で2点を取り、勝負あったかと思いきや、青森県協会も3点のビッグエンドを作り、地元青森の観客席が沸く。
両チームとも、相手がいいショットを決めれば、負けじといいショットの応酬で主導権を渡さない。相手がミスした直後にお付き合いしてしまう場面も見られたが、これはご愛嬌としておこう。良くも悪くも手に汗握る熱戦は、チーム軽井沢1点リードで最終エンドへ。
最終エンドの先攻は、青森県協会。最低でも1点スチール(先攻チームが得点を取ること)が必要な青森県協会。スキップの齋藤菜月が、ラストショットで、ハウス前方のコーナーガードの後ろに見事なカムアラウンドを決める。
ハウス内のストーンが打ち出される進路を塞ぐストーンを、ガードストーンと呼び、その中でも両サイドのどちらかに置いたストーンを、コーナーガードという(ちなみに中央付近に置くガードストーンは、センターガード) 。カムアラウンド(カムアと省略されることもある)は、ガードの横を通過し、かつ曲がってきてガードの後ろに隠れるショットのことだ。
やることは尽くした、現時点で考えうるベストショット。このストーンがハウス中央に一番近いストーンとして残れば、1点スチールでエキストララウンドに持ち込める。
ラストショットを前に、チーム軽井沢はタイムアウトをとる。タイムアウトは、1試合につき1回コーチを含め相談することが許されている。
考えられるラストショットの選択肢は、
① ハウス内にドローショットを決めてナンバー1ストーンを作る。
※ドローショット……相手のストーンに触れずにストーンを置くショット。逆に相手の石を打ち出すのはテイクショット。
② 自分も同じようにカムアラウンドを決めて、ハウス内にある青森県協会のストーンを打つ。ハウスの外まで打ち出せなくても、少しでも触れて自分のストーンをより中央に残せればOK。
③ 前にあるコーナーガードのストーンを叩いて、なおかつハウス内にある青森県協会のストーンに飛ばして、両方ともハウス内の外に打ち出すダブルテイクアウトショット(2つのストーンをはじくショット)。
といったところだろうか。女子の試合で選択されることが多いのは、①か②。しかし、チーム軽井沢が選択したのは③。
①のドローショットはテイクショットに比べ、コースだけでなくウェイト(ストーンがすべる速さ、強さ)もあわせなければならないので、やや難易度が高い。実際この試合では、両チームともウェイトコントロールがあわず、ストーンがハウス内を通過してしまうシーンが見られた。しかし、③のショットを成功させるには、2つのストーンの距離が結構ある。ストーンが当たる角度と同時に、飛ばしてはじくだけのウェイト(速くて強いショット)が必要とされる。男子の選手が、「俺達だったら、絶対あれだけど、女子では中々やらないよ! 」と言ったのはそのためだ。
しかし、チーム軽井沢のスキップ中嶋星奈は見事決めてみせた。最後の最後、一番プレッシャーのかかる場面で、女子では希有なショットを。その瞬間、ガッツポーズをして仲間と喜び合う。チーム軽井沢のプレーオフ進出が決まった。
「あの子は、楽しみだよ。きっとこれからくるよ」
また、楽しみな選手が1人増えた。この名前を覚えておこう。
チーム軽井沢は、公式練習の時に注目していたチームである。チームはまだ若く、リードの山本選手はまだ中学2年生。しかし、スキップの中嶋選手だけに限らず、みなテイクショットの安定感もあるし、とても力強いスイープ力も持っている。セットアップ(作戦に応じてストーンを配置する序盤の4投のこと)に苦しむ場面がまだ多いものの、そこが改善できれば大きな飛躍が期待できるチームだ。
あおもりユースもまだプレーオフ進出圏内。齋藤選手に引っ張られ大会序盤を盛り上げた青森県協会の若い選手達。そして、2強に続いてプレーオフ進出を決めたチーム軽井沢。選手権常連の富士急や、期待されていたヒト・コミュニケーションズもまだまだ健在ではあるだろうが、2強に次ぐ第3の勢力図は変わろうとし始めているのかもしれない。
新世代の息吹。それは新2強時代の片隅で、確かに芽吹いている。
次回は、明日のプレーオフ、準決勝を中心にお届けしたいと思います。