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リオ五輪開幕、その前に伝えておきたいこと

いよいよリオ五輪開幕目前。開会式は、日本時間8月6日の朝。現地入りした各競技の代表選手達のニュースが続々と届くなか、男子サッカーは一足先にスタートしました。

 

多くの競技で日本選手の活躍が期待されるなか、卓球はメダル獲得が期待される競技の1つ。

 

先に行われる個人戦では、男子の水谷隼選手が第4シード、女子の石川佳純選手が第4シード、福原愛選手が第6シード。各国のエース級との戦いは、初戦から楽なものではありませんが、順当に勝ち進めばメダルをかけた大一番が期待できます。

 

そして、団体戦に関しては更に期待が高いのでないでしょうか? 今年2月から3月の世界卓球団体では、男女共に銀メダルを獲得しています。特に女子に関しては、2012年ロンドン五輪団体銀メダル以降、隔年開催の世界卓球団体では連続銀メダル。ファンの関心は、メダルの先にある打倒中国にも集まっているでしょう。中国の壁はまだまだ高い。しかし、その差は少しずつ縮まっているように思います。

 

そんな中で気がかりなのが、今年に入ってからの福原選手に対する期待度の低さです。

 

“次世代のエース伊藤美誠”、“日本のエース石川佳純”。そうやって多くのメディアに取り上げられる両者。それに対し、27歳になる彼女のポジションは、“キャプテンとしてチームを支えるお姉さん”という認識が多く定着してしまった感があります。今まで、日本のエースとして戦ってきたその闘争心が、求められる役割によって、曇ってしまわないか? それが少々心配です。

 

 

「世代交代の波に飲まれた感じですね」

 

ベスト8に10代の選手が6人残った今年1月の全日本卓球選手権女子シングルス。福原選手はベスト16で19歳の加藤杏華選手に敗退。それについてアナウンサーに問われた、日本卓球協会役員のある解説者はその一言で片付けました。ベスト4まで進出した加藤選手の健闘については一切触れずに。たった1試合の敗戦で。

 

その後、福原選手は海外のツアー大会でも思うような結果が残せないことが続きます。ただ、ツアー大会の結果を見ると、石川選手や伊藤選手が特別いい結果を残しているわけでもありません。ましてや、それは五輪への調整段階。しかし、福原選手のニュースに対して、限界説や選考を疑問視するようなコメントが加速していきました。

 

“もう、石川の時代”

“愛ちゃんは終わった”

“なぜ福原を代表に選んだのか”

“美宇ちゃん(平野美宇選手)に譲るべき”

 

しかし、五輪本番を前にこれだけは知っておいて欲しい。彼女は世代交代の波を乗り越え、明確な代表選考レースを勝ち抜いてきたのだということを(少なくとも上記の解説者はご存知だったはずですが)。

 

卓球のリオ五輪代表枠は、男女ともに3人。シングルスの出場枠は2人なので、残りの1人は団体戦のみの出場。その選考基準は、

 

①シングルス代表2人は、2015年の9月に発表される世界ランキングの上位2名。

団体戦のみ出場の残り1名は、国際大会の成績などを加味した上で協会による推薦。

 

昨年5月に行われた世界卓球個人戦。度重なる怪我から復帰した福原選手は、2回戦で敗退。それに対し、当時14歳の伊藤選手は世界卓球初出場でベスト8という好成績を残します。大会終了後の世界ランキングは、

 

6位石川佳純

8位福原愛

11位伊藤美誠

15位平野早矢香

22位石垣優香

29位平野美宇

 

上位2名の出場枠の可能性は、実質平野早矢香選手くらいまでだったでしょうか。その後、ランキングポイントを稼ぐために多くの日本人選手が海外ツアー大会を転戦します。その結果、日本人選手の同士討ちも相次ぎました。もし、福原選手が本当に限界であるならば、若い世代にとって世代交代を実現させるチャンスが残っていました。伊藤選手が2番手になることも、協会推薦の3番手で成長著しい平野美宇選手が選ばれることも。

 

そして、9月の世界ランキング。

 

5位石川佳純

6位福原愛

10位伊藤美誠

17位平野美宇

19位平野早矢香石垣優香

 

この期間中、福原選手は海外のツアー大会で3回の優勝。中国オープンでは、世界卓球でベスト4に進出した木子(中国)選手を破り、当時世界ランク1位の丁寧選手(中国)とはフルセットの戦いを演じています。10月の世界ランクでは、石川選手を抜き自身最高位の4位にもなりました。

 

彼女はその戦いにおいて、世代交代の波を押しのける自身の存在を見事に証明してみせたのです。

 

 

ラソンなどのように選考基準が多くの人に知られている場合は、その選考方法が議論の的になります。そして、選考基準が広く知られていない場合は、選ばれた選手本人に批判の矢が向かことが多いような気がします。

 

思い出すのは、ソチ五輪で膝の怪我をおして出場したモーグル代表の伊藤みき選手。練習中に大怪我を負いレース棄権となった後の批判の中にはこんな言葉が数多く踊りました。

 

“彼女が辞退していれば、誰かが出場できたのに”

 

実際は、彼女が出場辞退をしても五輪出場条件を満たす日本選手はおらず、誰も代わりに出場することなどできなかったのです。

 

五輪は4年に1度のスポーツの祭典。多くの人が、断片的に切り取られて流された情報を元にして、多くの競技を視聴し、アスリートを知り、そのドラマに酔いしれます。それは仕方のないこと。ただ、それゆえに選手達のこれまでのプロセスが充分に伝わらず、間違った認識による批判に心を痛めることも少なくありません。せめて自分の知りうる限りの情報を発信することが、見る人々の助けになれば。少しでも間違った認識による批判の抑止力になれば。

 

五輪直前の合宿。かねてからキャプテンという重責に戸惑っていた福原選手に対し、今の彼女と同じ27歳でロンドン五輪キャプテンを務めた平野早矢香さんは、「らしくやればいい」と声をかけたそうです。その平野さん、以前に出演したテレビ番組で、福原選手のポイントを「コンディショニング」とおっしゃっていました。

 

福原選手は、度重なる怪我を乗り越え、世代交代の波を自らの力ではねのけてリオの舞台に立っています。

万全の体調で、自分らしく。そして、こんな駄文の抑止力なんて必要としない程の彼女の活躍を応援しています。地球の反対側、真夏の青空の下で。