情熱のカムアラウンド

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「サービスは100%のパフォーマンス」~世界一のビッグサーバー福岡春菜~

 8月から9月にかけて、女子バレーのワールドグランプリの放送を見ていたときのことである。日本は予選ラウンドを通過し安定した実力は見せたものの、一方で、中国、ブラジル、イタリア、ロシアといった強豪国とはまだまだ力の差があることを見せつけられた大会でもあった。

 

 強豪国との戦いの敗因に、真っ先にサーブレシーブの乱れが指摘されていた。高さで劣る部分を、速いコンビバレーで対抗する。そのための生命線が、いかにサーブレシーブをきっちりセッターに返すか、であることに異論はない。しかし、私が試合を見ていてどうしても気になることがあった。

 

 「日本のサービスは、なんて怖さがないのだろう」

 

 日本のサーブレシーブが乱れたのは、裏を返せば、相手のサービスが厳しかったからとも言える。強くて速いジャンプサービス。厳しいコースにコントロールされたサービス。強豪国は、高いサービス力で日本の速いコンビバレーを封じてきたのである。

 

 それに比べて、日本のサービスには、相手のレシーブをナーバスにさせるような怖さがほとんど感じられなかった。ただでさえ高い相手に速い攻撃を簡単に許しては、止めるのは至難の業だ。レシーブ力も大切だが、サービス力に目を向けた指摘がもっとあってもいいのに。そんなことをぼんやりと思っていた。

 

 今頃こんなことを思い出したのは、あるビッグサーバーの活躍のおかげである。それは、先日横浜で行われた国際卓球連盟(ITTF)プロツアー、荻村杯ジャパンオープンの女子シングルスで、見事4強入りを果たした福岡春菜選手(22歳、世界ランク43位)だ。

 

 準決勝では、世界ランク3位の郭炎(中国)に1‐4で敗れたものの、3回戦では、世界ランク7位の強豪リ・ジャウェイ(シンガポール)を倒し、準々決勝では、中国の丁寧(世界ランク37位)に勝利している。155cmの華奢な体をめいっぱい使って繰り出されるサービスは、間違いなく世界ナンバーワンといっていい。

 

 福岡春菜のプレーをはじめて見たのは、今年の春に行われた世界卓球選手権団体戦)だった。福原愛らとともに日本女子代表として参加した彼女は、初出場ながら5試合に出場して4勝1敗(この1敗は、試合後のラケット検査により失格負けとなったもので、試合には勝っていた)の好成績で、3大会連続のメダル獲得に貢献。このときも、得意のサービス力を武器に、4勝のうち2勝を世界ランク上位の選手からあげている。

 

 彼女のサービスにはほんとに驚いた。卓球の試合でこれほどサービスエースをとってしまう選手は見たことがない。その超攻撃的なサービスは、世界のプロ選手が時には空振りし、時にはノータッチエースを許してしまうことがあるほど。レシーブで点を取られてもひるまない。取られた分は、サービスゲームで取り返してしまう。得意の武器であるサービスを最大限に駆使して相手を攻めていく姿は、見ていて実に気持ちがいい。

 

 福岡春菜が試合で使うサービスのほとんどは、福原愛が使ったことで有名になった「王子サーブ」と呼ばれるしゃがみ込みサービスである。しかし、彼女のサービスは福原愛のそれと比べると、サービスのスピードがとても速く、ボールの回転もよく切れている。さらに、その回転の種類も多彩ときている(テレビでは16種類の王子サーブをあやつると言っていた)。そして、最も素晴らしい技術は、そのビッグサービスを厳しいコースにしっかり出せるコントロールである。

 

 私は学生時代に卓球をやっていたのだが、通常の投げ上げサービスに比べ、しゃがみ込みサービスは体全体を動かすためコントロールが難しい。しかも、スピードや回転量を出そうとすればするほど、コントロールは難しくなる。試合というプレッシャーの中で、スピードや回転を損なわずに左右のコーナーにきっちり決める。しかもその種類は多彩。彼女のサービスを見ていると、相当の練習量と研究心によって身に付けたのだろうなと感じた。

 

 私は、今でも母校の合宿に顔を出し、現役高校生を相手に卓球で汗を流している。現在の顧問の先生は、私が尊敬する指導者の一人である。彼の赴任以来、県大会出場が目標のチームは、県大会常連校になった。そんな彼が合宿で子供たちに配るプリントには、いつも興味深い言葉が書かれていて、私も見るのを楽しみにしている。その中のひとつにこんなものがあった。

 

 「サービスは100%のパフォーマンス」

 

 その意味は次のとおりだ。レシーブやラリーの中では、相手のプレーによって自分のパフォーマンスはある程度限定される。しかし、サービスは唯一相手に邪魔されずに、自分の100%のパフォーマンスを発揮できる絶好の舞台じゃないか。だから、しっかり考えて最高のパフォーマンスを見せなさいと。なんと素晴らしい言葉だろう。サービス・レシーブのあるスポーツにおける、サービスの大切さをよく言い表している。そして福岡春菜は、まさにその言葉を高い次元で体現してくれるビッグサーバーなのである。

 

 福原愛だけでなく、福岡春菜の名前をぜひ覚えておいて欲しい。彼女のサービスには一見の価値がある。華奢な体から繰り出される、美しく、しなやかで、それでいて力強いサービス。何たってそれは、観客を驚かせ魅了する世界一のパフォーマンスなのだから。