情熱のカムアラウンド

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「背中を見せる事」で澤穂希が送り続けるメッセージ

「背中を見せる事」で貢献できる選手というのは、特別な存在である。

WBC(ワールドベースボールクラシック)でイチローが見せた背中。日本代表で中山雅史が若手に見せ続けた背中。そんな背中を見せられて、何も感じない選手はまずいない。

 

なでしこジャパンにおいて、「背中を見せる事」で貢献できる選手の筆頭は、やはり澤穂希だろう。

 

先日丸亀市で行われた、ニュージーランドとの強化試合で、日本代表は1−0で勝利。久しぶりに代表のユニフォームに袖を通したなでしこジャパンの10番は、決勝点となる1点を決めチームの勝利に大きく貢献した。得点シーンも見事ながら、際立つ存在感を見せたのは、むしろ何気ない堅実なプレーぶりだ。

 

赤ん坊をあやすかのように大事に大事にボールを扱い続けていた。慌てずに相手をいなし、プレスにくる相手の足を止めてから味方にパスをさばく(センターバックの岩清水選手もよくできていたと思う)。守備に関しても、プレスに行くのか行かないのかの判断が曖昧になる事はなかった。周囲に声をかけながら、細かな動き直しでパスを受ける。攻守のつなぎ役となるボランチがこれだけ堅実なプレーをしてくれれば、チームは落ち着く。

 

4年前のW杯世界一、3年前の五輪準優勝以来、なでしこジャパンの勢いが下降気味なのは否めない。他国との力関係が変化したのには、様々な要因があるだろう。他国のレベルアップ。研究が進む各国の日本対策。チーム力をアップさせるような若手の台頭が少ない…etc。

 

そして、どこか波に乗り切れない、くすぶった停滞感に拍車をかけている最大の要因。それは、相手に隙を見せるような軽いプレーが散見してしまうことだと私は思っている。

 

安易な飛び込みをすかされて中盤の守備網を突破される。相手の前線からのプレッシャーに慌てるナイーブさ。守から攻への切り替えとなるパスのミス。攻撃のスイッチを入れる縦パスのミス。結果が出ないことからくる自信の喪失なのか、プラスアルファとして取り組んできた、タッチ数を少なくし手数を減らして速く攻める攻撃の型がうまくいかないことからくる焦りなのか。それ故に見せてしまう隙が、チームのリズムを狂わせ、同時に相手を楽にしている。

 

ニュージーランド戦後、澤は、「久しぶりに日の丸を背負って出場できて楽しかった」と話す一方で、自身の役割を、「私は声をかけたり体を張ってスライディングをしたり、その背中を見せるのが使命」と話した。

 

澤穂希が試合で見せた堅実なプレーは、「背中を見せる事」で必死にメッセージを送り続けているように見えた。焦るな。自信を持て。ボールを大事にしろ。軽いプレーをなくし、相手を楽にさせるプレーをするな。我慢しろ、我慢しろ、と。言わずもがな代表の重みは誰よりも知っている。そんな選手の背中を見て何も感じない選手はいないはずだ。

 

4年前に世界一になった原動力。それは、しっかりつなぐパスサッカーの裏にあった、相手を上回る忍耐強さと集中力であったと私は思っている。体格で負けてもしつこく体を寄せ、粘り強くパスをつなぎ、運動量で負けず集中力が途切れない。それこそがなでしこジャパンの強さの神髄だった。W杯当日までに急にチームが強くなる事はない。華麗に相手を凌駕する事は現状難しいだろう。しかし、自分達にできる事をやり続ける事ができれば、堅実なプレーを心がけ、自分を見失わなければ。その一戦一戦の積み重ねが、どんな強豪相手にもひるむ事のないチームの強さになる。

 

澤穂希の堅実なプレーぶりが際立ったという事は、まだチーム全体として堅実さが足りない事の裏返しでもある。「背中を見せる事」で澤穂希が送り続けるメッセージ。そのメッセージがチームに浸透するかどうか。W杯で、なでしこジャパンの逆襲が見られるかどうかの生命線となりそうだ。