情熱のカムアラウンド

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「死んでもいいと思ってやる」 宮下遥の強い決意

出場国の上位2チームに五輪出場権が与えられる今回のワールドカップバレーは、7試合を終えて6勝1敗で5チームが並ぶ熱戦。1敗同士で迎えた9月1日のセルビア戦、日本はフルセットの末に敗れ2敗目を喫しました。残り3戦のうち2戦は、日本(世界ランク4位)より世界ランク上位の中国(同3位)とアメリカ(同1位)。今大会での五輪出場権がかなり難しい状況となりました。試合後、残り試合への意気込みを聞かれ、この日21歳の誕生日を迎えたセッター宮下遥選手は悔しさをにじませながら強い決意を口にしました。

 

「死んでもいいと思ってやる」

 

宮下遥選手からこんなにも強い言葉が発せられたのは少し驚きましたが、彼女のたくましくなった姿を再確認したように感じました。

 

宮下遥選手は、岡山シーガルズの選手として15歳でVプレミアリーグデビュー。元全日本で天才セッターと言われた中田久美さん(現久光製薬スプリングス監督)をして「あの子はモノになる」と言わしめ、天才セッターとして若い頃から将来を嘱望される存在でした。

 

ロンドン五輪で銅メダルを獲得し、それまで長年全日本のセッターで、キャプテンでもあった竹下佳江選手が引退。その後継者として最も期待されたのが、宮下遥選手でした。彼女のイメージは、どちらかというと年上のお姉さん達に引っ張られながら必死で頑張っている女の子。鋭い眼光よりも、点を取ったときの安堵の表情や、決めてくれたスパイカーに感謝するようなあどけない笑顔が目立つ選手でした。

 

去年の8月に行われたワールドグランプリバレーでは、レギュラーセッターとして出場し見事2位。しかし、順調に見えたかと思われたその矢先、試練は訪れます。翌9月に行われた世界バレー。格下と思われる相手にも痛い星を取りこぼした日本は、最終ラウンドを待たずに敗退し7位で大会を終えました。試合後、彼女が涙を流していたシーンが強く印象に残っています。怪我の影響もあったようですので、思うようにプレーできなかった悔しさもあったでしょう。しかしその姿は、悔しさというよりは押し寄せる重圧に押しつぶされたように見えました。

 

バレーボールにおいて、セッターというポジションは、スパイカー陣を操る司令塔。味方のスパイカー陣の特徴や状態を見極めながら呼吸を合わせるいいトスを供給するのと同時に、相手の守備網をかいくぐるように配給を工夫しなければなりません。バレーボールにおいて、替わりの選手を育てるのが一番難しいポジション。

 

そう考えれば、竹下佳江選手が引退したロンドン五輪後の日本はマイナスからのスタートでした。しかし、銅メダルを獲得し、周囲はいやがうえにも更に上の成績を期待します。世界と同じ事をやっていたら勝てない。次回リオ五輪の目標を金メダルと掲げる全日本は、新たなフォーメーションや戦術を打ち出します。スパイカー陣とのコンビネーションもまだ途上の最中。新しいフォーメーションや戦術に取り組むのは想像以上に大変だったでしょう。世界バレーで彼女の涙を見た時、そんな不安と周囲の期待の中で戦っていたのだなと感じました。

 

そして、今年の7月に行われたワールドグランプリバレーさいたま大会。コート上には、引き締まった表情で味方に声をかける宮下遥選手の姿がありました。自分より年下の古賀紗理那選手や宮部藍梨選手、比較的年の近い新しい選手が代表入りしたこともあるのでしょう。彼女の姿は、お姉さん達に必死でついていくあどけない天才少女ではなく、チームを勝利に導こうとする司令塔の姿でした。試合は、イタリアにはフルセットで負け、中国には全く歯が立ちませんでした。その後の決勝ラウンドでも、5戦全敗(うち4試合はストレート負け)と明るいニュースが少ない中で、彼女の姿は古賀紗理那選手の台頭と同じくらい印象に残りました。

 

今大会、日本は負けたもののワールドグランプリバレーではストレート負けしたロシアにフルセット。一時期に比べればチーム力が上向いてきたのかなとも感じます。木村沙織選手を脇役に追いやるほどの古賀紗里那選手の活躍。厳しい時に決めるエースの風格が出てきた長岡望悠選手。一時期戦術から外されたミドルブロッカー陣も存在感を見せています。その他の選手達も自分の持ち味を発揮しています。チーム全体として、スパイクだけでなくサーブでもブロックでもディグでも貢献しようとする高い意識も見えています。

 

セッター古藤千鶴選手のプレーや表情にも、今大会に懸ける静かな闘志を感じます。ただ、今大会の使われ方を見る限り、やはり全日本の正セッターと考えられているのは宮下遥選手。アメリカ戦と中国戦に勝利する事は容易ではないとは思いますが、「死んでもいいと思ってやる」彼女の闘志が、このチームをどう引っ張ってくれるのか楽しみです。