なぜ香川は輝けないのか〜忘却の代償〜
私が、ホンジュラス戦で一番気になった選手は誰ですか?と問われたら、私は香川と答える。失礼ながら、何の怖さも意図も感じられなかったホンジュラス代表への失望と同じくらい、香川のパフォーマンスは予想通りだった。そして、試合後の「自分も(ゴールを)取りたかったです」というコメントに寂しくなった。
相変わらずボールタッチの柔らかさは健在だった。時折見せた視野の広さも悪くない。とりたてて不調と叫ぶ程でもない。香川の技術や能力が日本人選手の中で優れている事に異を唱えるつもりもない。
ただ、それだけなのだ。
なぜ、武藤にボールが集まるのか? なぜ、遠藤はゴールを決められたのか? 気付いていない。W杯の惨敗から変わっていない。その技術や能力の活かし方を忘れてしまったままだ。
なぜ、武藤にボールが集まるのか? それは、パスを出したくなるところに“いる”からである。なぜ、遠藤はゴールを決められたのか? 本田がパスを出したくなるところに“いた”からである。二人とも、パスを受ける為に動きを怠らず準備ができているからだ。
後ろに相手ディフェンスを背負ったままゴールに背を向け、何となく“漂っている”事の多い香川にパスが出したくなるだろうか? 今の香川にパスが出したくなるような準備ができているか? 相手のマークをはがす動きをあらかじめしているか?
本田はどうだろうか? 確かに相手ディフェンスを背負っている時でも、本田にはパスが集まる。それはキープ力に信頼を置かれていて、本田もその長所を知っているからである。今の香川に本田ほどボールを取られない信頼があるか? 仮にボールを失ったとして、ファーストディフェンダーとして相手を追いかける獰猛さがあるか? もしそう問われれば、私はとてもじゃないがあるとは言えない。
また、今の香川はボールを持ちすぎる傾向が非常に多い。結果として、その判断の遅さが攻撃テンポを停滞させている場面が多々ある。ボールを持ちすぎたとしても、それを補うだけの前に運ぶ推進力と仕掛ける覚悟があるか? また味方へ戻すバックパスは、相手の前へ出る圧力を牽制する優しさがあるか? ボールを持ちすぎた責任をとっているか?
もちろん、どれだけ受け方が悪くても、ボールを持ちすぎても、ドリブルで相手を抜き、素晴らしいパスを通し、シュートを決めてしまうなら何も文句はいえない。絶対的な能力で全て結果を出してしまうなら。でも、結果を出せないなら…技術はあるというだけである。
そして、彼以上に私を失望させるのは、そんな香川を「良くなっている」「さすが香川」と評価する声が聞こえてくる事だ。もちろん、人それぞれに見方や評価のポイントはあるだろう。しかし、W杯で惨敗した悔しさからの成長という観点でみれば、少なくとも代表では彼を評価できない。
少なくとも技術や能力の活かし方に気付いていないままの“今の”香川では。
今日のオーストラリア戦で、“今の”香川から少しでも脱却した香川を見ることができるだろうか。その可能性は極めて低いと悲観している一方で、強く切望している自分がいる。